Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

台所からキッチンへ(9)

2022年03月02日 06時30分45秒 | Weblog
 こういう風に見てくると、戦前戦中の「軍事化」の亡霊は、戦後もかなりの力を保っていたということが出来そうだ。
 これを仮に、「『強い父』復権志向」と名付けてみる。
 他方、この志向とは別に、一見すると無関係に見えるようだが、実際には密接な関係にあるもう一つの志向が出現していた。
 そのことは、「東京物語」(昭和28年(1953年))を観ればすぐ分かる。
 私の見る限り、このことを示す象徴的な場面は2つある。
 一つは、老夫婦が泊まった熱海の旅館で、若い宿泊客たちが夜通しで麻雀をするため、老夫婦が余りの騒がしさに宿から逃げ出してしまう場面。
 もう一つは、亡き母の棺を囲む子供たちのやり取りの場面。

東京物語
志 げ・・・「でも何だわねえ-
 そう言っちゃ悪いけど どっちかって言えば お父さん先のほうがよかったわ ねえ」
と 言う志げ。
幸 一・・・「ウム」
志 げ・・・「これで京子でもお嫁に行ったら お 父さん一人じゃやっかいよ」
幸 一・・・「ウーム まァね え」
志 げ・・・「お母さんだったら東京へ来てもらっ たって どうにだってなるけど
 ねえ京子 お母さんの夏帯あったわね? ネズミのさ-
 露芝の……」
京 子・・・「ええ」
志 げ・・・「あれあたし 形見にほしいの
 いい? 兄さん」
幸 一・・・「ああ いいだ ろ」
志 げ・・・「それからね-
 こまかいかすりの上布 あれまだある?」
京 子・・・「あります」
志 げ・・・「あれも欲しいの しまってあるとこ  わかってる?」
京 子・・・「ええ」
志 げ・・・「出しといてよ」
京 子・・・「ええ」


 母の遺体を囲んだ(京子を除く)3人の子供たちは、形見分けの話に興じながらご飯をおかわりし、「仕事があるから早く帰らなきゃ」などと話している。
 小津監督は、夜通し麻雀に興じる若者たちと同様に、この3人の子供たち(特に杉村春子の演じる「志げ」)を批判的に描いている。
 彼ら/彼女らの共通点は、自身の生活(仕事と娯楽)への没頭・あくなき執着である。
 この思考・行動を仮に「生活(力)至上主義」と名付けてみる。
 この「生活(力)至上主義」が、「『強い父』復権志向」とは車の両輪と言うべき関係にあるのだからなんとも怖ろしい。
(ちなみに、私が父=大松監督、母=「志げ」という家庭に生まれていたとしたら、おそらく幼いうちに家出していたと思う。)
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする