木村一基九段「昔の感覚が染みついている人は、玉を囲うということを大事に考えて、それでやれるはずだということを信じて対局に臨んでいるわけです。ところが実際、その結果どうなるかというと、やっぱり負けちゃうんですよ。将棋界は勝ち負けがすべてといっていい世界ですので、じっくり囲うことに重きを置いて作戦を立てるという考え方をする棋士が今後、増えるとは思えないんですよ。そうすると、どうしてもいかに積極的に先制攻撃を仕掛けるか、相手から攻められる側としてはどのタイミングで反撃するかなど、そういったことを工夫する人が多くなるでしょう。」(p41~42)
王将戦ではっきりわかったのは、「玉を殆ど囲わず、十分な研究の裏付けのある先制攻撃を仕掛ければ、途中で間違わない限りだいたい勝てる」ということである。
このように、「先制攻撃能力」を最重視するのは木村九段の説なのだが、木村九段は、この背景にAIの影響があることを指摘している。
例えば、藤井さんは、仕掛けから詰みまでの手順を、おそらくAIを利用して研究しているはずで、この術中にはまったらさすがの羽生さんもワンサイド・ゲームで敗けてしまう。
つまり、事前の研究の質と量で、勝敗が決まる時代なのである。
となると、将棋連盟会長のような公職に就くと、研究に充てる時間が不足するだろうから、さすがの佐藤康光九段もA級から陥落してしまう(1勝8敗)。
何と、”羽生世代”はA級から姿を消してしまった。
「日本将棋連盟の佐藤康光会長(53)=九段=は4日、東京・千駄ケ谷の将棋会館で記者会見し、6月9日の任期満了を持って退任することを明らかにした。羽生善治九段(52)が理事予備選挙に立候補しており、6月の棋士総会を経て次期会長に就任する見通しとなった。 」
佐藤九段に代わって、羽生さんが会長に就任するようだが、これは自然な流れだろう。
それにしても、AIの無い時代ではあったけれど、連盟の会長を務めながら、かつ病と闘いながら、A級の地位を守り抜いた大山康晴十五世名人は偉大だった(羽生善治A級陥落で改めて思う 大山康晴十五世名人の威容)。