「実は、賃金が上がらない原因は、物価が上がらないことにあります。企業は、自分の売る商品の価格を上げられないので、賃金を上げてしまうと経営が成り立ちません。一方、労働者であり消費者でもある私たちにとっては、賃金が上がらない以上、価格も据え置きでないと生活が成り立ちません。このような双方の要望を満たすギリギリの妥協点として、賃金も物価もともに据え置きという状態を日本は選択してきました。・・・
しかし、海外からインフレの波が日本にも及び物価が上昇を始めた今、この絶妙のバランスは崩れつつあります。・・・」(p46)
発行から1年近く経過したので、タイムリーでなくなっている箇所があるかもしれないが、必読の書だろう。
引用した箇所は重要なくだりだが、私見では、渡辺先生は1つ見落としをしていると思う。
「労働者」、「賃金」とあるが、「労働者」の層が、この20~30年でどんどん切り崩されてきた上に、ウーバーなどを見れば分かるように、パンデミックによってこの動きが急速に進行したからだ。
労働契約がなく、(賃金ではない)「業務委託料」が支払われるというのであれば、「最低賃金」や「昇給」という概念は妥当しない。
なので、企業側としては、どんどんこのコストを切り下げていくわけだ。
その上、日本銀行は、アメリカのFedとは違い、「雇用」を「政策目標」としていないので、金融政策によってこの問題に対処することはほぼ不可能である。
・・・かくして、私見では、「手取り収入は増えないが物価は上昇する」という悪循環に陥ってしまうおそれは大きいとみる。