「まずは実力をつけること。その上で面白い将棋を指したいという気持ちがあるので、そこを目指していきたいです。」
何と謙虚で、しっかりした受け答えであることか!
「面白い将棋」という言葉で真っ先に思い浮かぶ棋士は、やはり、次々と新しい戦法を生み出した升田幸三さんである。
個人的には、内藤國雄さんも、「どの戦法が飛び出すか分からない」ので注目していた。
同じ「くにお」だが、米長邦雄さんの将棋も個性があって面白かった。
内藤さんは「自在流」、米長さんは「泥沼流」と呼ばれていたのが懐かしい。
こういう風に見てくると、「面白い」かどうかは、まずは「戦法」で決まると思う(もちろん、個々の局面における「手」も重要だが、これは二の次だろう)。
そこで、藤井さんの戦法(2022年4~12月の先手番。後手番では戦法を選べないことが多い。)を分析してみると、22局中、角換わりが11局、相い掛かりと横歩取り(内藤さんの得意戦法)がそれぞれ4局、四間飛車(藤井さんは居飛車側)、向かい飛車(藤井さんは居飛車側)、雁木がそれぞれ1局であった。
角換わりと横歩取りは、序盤の研究で勝敗が決まることもあり、素人から見ると難解であるし、どちらかと言えば、大半の人にとっては「面白くない」。
対して、大駒が活躍する振り飛車系の将棋は乱戦に移行することも多く、見ていて「面白い」。
ところが、藤井さんは「絶対に飛車を振らない」のである(「飛車を振るとさばけないので…」絶対に飛車を振らない天才・藤井聡太の師匠が“振り飛車党”になったわけ『師匠はつらいよ 藤井聡太のいる日常』より)。
そこで、私個人は、居飛車党だが角換わりや横歩取りを好まない棋士、あるいは振り飛車党の棋士との対局に注目することとしたい。