(réciprocité(レシプロシテ)について) 「「互酬性」という訳語を見かけるが、安定した対価性や利益交換を想起させるのでミスリーディングである。主体間の関係に一定の安定をもたらすかのような誤解を与える。事実これを社会編成や制度の基礎と見る社会科学理論がある。しかしéchange という概念とともに、システムではなく問題状況をさしあたり指示する語である。」(p8の注8)
レシプロシテは、主体間の関係に一定の安定をもたらすのではなく、むしろ関係を不安定にする可能性を有している。
そのことは、例えば、次の2つの例を見ると分かる。
「「古舘伊知郎さんが、テレビ各局のプロデューサーが銀座のクラブの請求書もジャニーズ事務所に送っていたぐらいだとぶちまけたこと。これが本当かどうか、テレビ局は調査してしかるべきなのに動きが鈍い。ジャニーズ問題の報道に躍起になっていますがブーメランにならなければいいですね」
銀座のクラブの請求書まではいかずとも、番組スタッフはジャニーズのライブや舞台のチケットの取りまとめ役になっていた。ファンクラブでも当たらないプラチナチケットが簡単に手に入るという便宜。テレビ局は上層部から現場スタッフまでジャニーズの蜜を享受していたのだ。」
テレビ局は、J社からいわば「口止め料」をもらっていたという見方が出来るだろう。
裏を返せば、「口止め料」がもらえないのであれば「暴露するぞ」ということになる。
「沈黙」と現在の「バッシング」は、レシプロシテの作用というわけである。
「かつて、検察と政権との関係はかなり対決的だった。ロッキード事件にしても、特捜部が自民党政権の「暗部」に切り込む形の事件であった。しかし、その後、ある時期から両者が繋がり、検察が政権の意向を忖度して動くようになったようにも思える。
前出の三井環氏によれば、検察が裏金問題を封じ込めるために、当時の自民党政権に大きな借りを作ったからだという。」(p255)
法務・検察は、自民党の巨悪に切り込まない代わりに、自民党から「裏金問題」を表に出さないでもらっているという説である。
これも絵に描いたようなレシプロシテの発現である。
だが、これが双方集団に対して、J社とテレビ局がまさにそうであるような、”いつでも裏切り/裏切られる”という、不安定な状況を生み出しているのだ。