時々、無性にその世界にどっぷり浸かっていたい世界(本)がある
このところ少しばかり真面目っぽい本ばかり読んでいた反動のせいかもしれないが
脱力系の、しかし時を重ねたものには実感として大いに納得できる内容の
飲ん兵衛の詩「ルバイヤート」がそれだ
短い詩が書き連ねられているが冒頭は、こんなだ(ルバイヤートから抜粋)
1
チューリップのおもて、糸杉のあで姿よ、
わが面影のいかばかり麗うるわしかろうと、
なんのためにこうしてわれを久遠の絵師は
土のうてなになんか飾ったものだろう?
2
もともと無理やりつれ出された世界なんだ、
生きてなやみのほか得るところ何があったか?
今は、何のために来きたり住みそして去るのやら
わかりもしないで、しぶしぶ世を去るのだ!
3
自分が来て宇宙になんの益があったか?
また行けばとて格別変化があったか?
いったい何のためにこうして来り去るのか、
この耳に説きあかしてくれた人があったか?
4
魂よ、謎なぞを解くことはお前には出来ない。
さかしい知者*の立場になることは出来ない。
せめては酒と盃さかずきでこの世に楽土をひらこう。
あの世でお前が楽土に行けるときまってはいない。
5
生きてこの世の理を知りつくした魂なら、
死してあの世の謎も解けたであろうか。
今おのが身にいて何もわからないお前に、
あした身をはなれて何がわかろうか?
(6)
いつまで水の上に瓦かわらを積んで*おれようや!
仏教徒や拝火教徒の説にはもう飽あきはてた。
またの世に地獄があるなどと言うのは誰か?
誰か地獄から帰って来たとでも言うのか?
7
創世の神秘は君もわれも知らない。
その謎は君やわれには解けない。
何を言い合おうと幕の外のこと、
その幕がおりたらわれらは形もない。
8
この万象ばんしょうの海ほど不思議なものはない、
誰ひとりそのみなもとをつきとめた人はない。
あてずっぽうにめいめい勝手なことは言ったが、
真相を明らかにすることは誰にも出来ない。
9
このたかどのを宿とするかの天体の群
こそは博士らの心になやみのたね
だが、心して見ればそれほどの天体でさえ
揺られてはしきりに頭を振る身の上。
10
われらが来たり行ったりするこの世の中、
それはおしまいもなし、はじめもなかった。
答えようとて誰にはっきり答えられよう――
われらはどこから来てどこへ行くやら?
中略
16
今日こそわが青春はめぐって来た!
酒をのもうよ、それがこの身の幸だ。
たとえ苦くても、君、とがめるな。
苦いのが道理、それが自分の命だ。
17
思いどおりになったなら来はしなかった。
思いどおりになるものなら誰たが行くものか?
この荒家あばらやに来ず、行かず、住まずだったら、
ああ、それこそどんなによかったろうか!
難しい顔をしてあれこれ考えているよりお酒を飲んで楽しんでしまおう
という少しばかり虚無的な飲ん兵衛の詩だ
そう言えばお酒大好きな詩人には李白がいたようだが
マーラーの大地の歌の第一楽章はこの李白の詩を参考とした
「大地の哀愁に寄せる酒の歌」があり「生は暗く、死もまた暗い」のフレーズが繰り返される
この詩の内容はともかく、音楽的には冒頭のホルンの主題はとても魅力的だ
ルバイヤートは後半になっても開き直りの投げやりさが続く
(78)
死んだらおれの屍しかばねは野辺のべにすてて、
美酒うまざけを墓場の土にふりそそいで。
白骨が土と化したらその土から
瓦かわらを焼いて、あの酒甕さかがめの蓋ふたにして。
(79)
死んだら湯灌ゆかんは酒でしてくれ、
野の送りにもかけて欲しい美酒うまざけ。
もし復活の日ともなり会いたい人は、
酒場の戸口にやって来ておれを待て。
(80)
墓の中から酒の香が立ちのぼるほど、
そして墓場へやって来る酒のみがあっても
その香に酔よい痴しれて倒れるほど、
ああ、そんなにも酒をのみたいもの!
おいおい!とチャチャを入れたくなるが、どこかホッとする
真面目もいいけど、こんな本音トークも大好きだ
こうした生産的でないものへの偏愛は、最近の真面目を要求される生活からの反動
と勝手に思っている(本当かな?)
こんなお酒の歌が好きでも現実世界では
「養命酒を飲むくらい、とか梅酒を少し」で笑いをとり、割り勘をすれば絶対勝ちめはない立場
でも、宴席で馬鹿話ができれば、、、いいか