パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

マザーツリーを読んで

2023年03月28日 09時26分51秒 | 

今年読んだ本の中で印象に残ったのは「植物は知性をもっている」
(ステファノ・マングーゾ著)
動かず声も出さない植物が、実は巧みな方法でコミュニケーションをとり
また親族か否かも識別でき、自分たちが生き延びるのに的確な判断が
できていることを紹介した本だ
たまたま同時期に見たNHKスペシャルの超進化論でも
植物の知られざる能力が紹介され、驚きをもって見続けることになった

だから続けて「植物は未来を知っている」(ステファノ・マングーゾ著)
そして今回のマザーツリー(スザンヌ・シマード著)と
バトンリレーをして読んだのは自分にとって内的な必然性のあることだ



この本も驚きの事実が紹介されている
森の存在は建築資源の供給と考えると、人は効率の良い回収法を考える
伐採して植樹して早く成長させて、そしてまた伐採する
今まではいろんな植物が混在した森を、下草は木の栄養分を横取りするもの
混在する木々は日照時間を奪うものとして扱い、雑草剤を撒いたり
余分な木々を伐採する方法が国としても奨励される

ところが、それで良いのだろうか?
実感として、そうではないと考える著者は、自分の仮定した説を
明らかにするために独自の実験(検証)を行う
それは放射性炭素を用いた方法で、その炭素の移動が
どのように行われるかをわかるようにしたものだ
すると思いもよらぬ結果が出てくる
今まで邪魔者だと思われていた下草や他の木々が邪魔なのではなくて
建築材として成長してほしい木々は、光合成で作り出した糖分を
これらの植物に施しをしているというのだ
一方的に与えるだけというのは考えられないので、何らかの利益が
与える側にもあるはず!といろいろ思索し実験を行う
これらの思考の過程と検証の部分はとても面白い

ただこの本は科学のみの内容ではなかった
作者の生き方とか考え方とか生活のことが同じくらいの分量で書かれている
(弟のこと、夫のこと、子どもたちのこと、乳がんのことなど)
正直なところ、自分にとっては余分な部分に思えてしまった
それらを除いてシンプルに書かれていたほうがわかりやすいと思えた
だが、作者の思いは科学的な説の紹介とかだけではなかったようだ

つまりは森の生き物、植物、動物、菌類の生き様の教えるものが
彼女の生き方にも影響を与えていて
人間もそのように生きるべきではいのか!との考えを持つようになる

進化論はともすると生存競争の一言で断言される
ところが作者の見続ける森の世界は弱肉強食の世界ではない
それはまるでゲームの理論の「囚人のジレンマ」の答えのように
それぞれが同じように利益を得る選択こそが最適解となっている
と気付かされる
生き延びるには自分だけが勝ち残るのではなく、共にいる生き物も
やはり生き延びられるようにするほうが、全体的にはうまくいく

この植物の共生に基づく考え方は、最近の研究でも徐々に
素晴らしいものだと明らかになって、広まりつつもあるようで
昨日たまたま話す機会があった女性も、この考え方を当たり前のように口にした

何年か前「複雑系」という言葉が流行った
物事を細分化し、分析して積み上げたものが全体ではなく
多数のパラメーターによって成り立つのが全体で
それらの複雑さを無視してはならないといった考え方と
勝手に理解したが、今回の作者の主張もそこにあるような気がした

世界は共存したほうが、生き延びる可能性は高くなっていく
それは存在するかしないかわからない動植物や菌の意志の
なせる技ではなく、単に確率論的なもの(突然変異)からも
導きだされる事実なのだろう

人は植物から全体最適の生き方を学ぶとか
何かを感じるというのが、今は本当に必要だと思う






コメント
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