■大規模地震を想定
久居駐屯地祭における訓練展示は、大規模地震に伴う災害派遣を想定して実施された。駐屯地祭の前の週に、三重県を震度5強の地震が襲ったこともあり、現実感ある展示であった。
訓練展示は従来、模擬戦が多く行われるが、災害派遣展示も少なからず行われる。戦車や特科火砲による空包射撃は行われないが、航空機や所在部隊を中心として展開される災害派遣展示も、特に地元自治体には大きな関心を集めるものではないだろうか。
状況展示にリアリティを与えるべく、仮設家屋を搭載した73式大型トラックが会場にて準備を終える。この模擬家屋搭載トラックは全部で二台ほどあり、観閲台からはトラックの部分は見えないように配置されている。模擬家屋の上部屋根を荷台に立つ隊員が支えている。
スピーカーから地響きを模した轟音が流れ、いよいよ状況開始。強烈な地震により仮設家屋の屋根が煙と共に崩れ落ちる。実際には耐震補強を施していない家屋は、そのまま横に押しつぶされる場合もあり、迅速な救助が被災者の命を繋ぐ為の鍵となる。
災害派遣要請とともに、被災地へ進出した本部管理中隊情報小隊のオートバイ斥候。倒壊建築物による瓦礫で車輌通行が困難な場合でもオートバイ斥候であれば情報収集や連絡任務に対応できる。また観閲行進に登場した資材運搬車も3㌧の資材を搭載して20km/hで移動することが可能だ。
地震により道路が崩落し、大破した乗用車内に要救助者を発見。一刻を争う状況であるが乗用車の破損は著しく、エンジンカッターなどの特殊工具がなければ救助できないという状態である。
情報小隊からの情報に基づき、師団長はヘリコプターの増援を決定、明野駐屯地に駐屯する第十飛行隊へ、第33普通科連隊の隊員を乗せ被災地へ急行した。道路状況に関係なく展開することが可能であり、このUH-1Jは赤外線暗視装置(FLIR)を操縦席下に搭載しているため、運用の柔軟性が向上している。
降下用意、降下ッ!。四名の隊員がロープとともに一斉にヘリから降下する。
このロープを用いたラペリングは、航空機からの急速展開以外にも、市街地における戦闘などでは建築物の上部から進入する場合にも応用できる。
情報小隊やヘリコプターからの情報に基づき、災害派遣部隊の本隊が到着した。先頭をゆくのは軽装甲機動車。瓦礫が産卵する状況下、落下物の危険や火災現場の近傍まで進出するには、装甲車も必要とされる場合もあるかもしれない。
続々と到着する高機動車。全長4.9㍍、全幅2.2㍍と大型の車両であるが、四輪転舵方式を採用したことで旋回半径は6㍍、150馬力ターボディーゼルは良好な加速性能を有し、余裕のある大型の車体は様々な用途に用いられている。
救急車も到着しその背後ではテントの設営も開始されている。ただ、この救急車、野戦運用には車高が高すぎるような気がする為、そろそろ高機動車派生型を開発し併用してはどうか、と思ったりもする。そちらのほうが重心が低く不整地突破能力も高そうだし、73式中型トラックを用いた現行型は高規格救急車仕様に改造して運用すればいい。
特殊工具の使用展示。阪神大震災の教訓から災害出動に対応する装備として人命救助システムと呼ばれるコンテナ式のものがあり、個人用、分隊用、小隊用、中隊用の器材と救護所用救命セットより成るものがある。ジャッキ、エンジンカッター、エンジン式削岩機、手動ウインチ、背負い式消火ポンプ、ガス検知器、音響探知機、破壊構造物探知機などからなる。
想定倒壊家屋より負傷者を救出。迅速に応急処置を施し、必要であれば後方の医療施設へ搬送する。
ちなみに東海・東南海・南海地震では、中部方面隊の第十師団・第三師団・第十四旅団と、東部方面隊第一師団管区に被害が及ぶ可能性が示唆されている。
エンジンカッターにより鉄パイプの切断を展示。こうした装備品は、消防などでも有しているが、炊事や天幕などにより自己完結能力を有し、また師団施設大隊により架橋装備をもってすれば、橋梁が破壊された状況でも展開が可能である。
野外炊具一号と3㌧半水タンク車が派遣部隊と合流する。野外炊具1号は、六個の還流式炊飯器と万能調理器からなり、200名分の炊事を45分以内に実施可能だ。また、水タンク車は5000?の水を有している。この他、毎分150~180?を濾過浄水する浄水セットなどがある。
報道写真のようなこの一枚は、空中搬送の様子。救助した負傷者の中に重傷者がおり、その搬送に一刻を要する状況に、空中搬送を決意した。UH-1Jへ、機体が引き起こす猛烈なダウンウォッシュを避け、機体に駆け寄る隊員。オレンジ色のストレッチャーは、折畳んで丸めることの出来る軽量なものだ。
救護所天幕も設営された。陸上自衛隊には様々な種類の天幕がある。ただ、もし九月など台風の時期と震災が重なることがあれば、大丈夫かな、と思ったりもしたが、おそらくトラックなどの大型車輌を風除けにすればなんとかなるのかな?とも。ちなみにカナダ製の伸縮式防災用天幕で、風速20㍍にまで対応できるものも開発されているそうだ。
情報が入り、次の被災地へ展開するという想定で、状況終了となった。
普通科連隊には1200名という強力なマンパワーがあり、即応性を以て対応することが可能であるが、他方で限界もある。というのも各中隊が複数の市町村に派遣されるということだ。だが、師団の支援とともに特殊な器材などを有し、消防や自治体と補完し合えば、多くの人命を危険から救うことが可能だ。
HARUNA
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