■名鉄7000形営業運転終了
全てのものに終わりは来る。ただし、多くのものは継ぐものがあるのだが、継ぐものがない場合もある。しかし、そうした中でも多くのファンに愛された電車は、最後の力走を果たした。本日は、その模様を掲載したい。
名古屋鉄道の看板電車として活躍した7000形電車パノラマカー。展望席を備えた人気の電車であり、7500形や7700形とともに、一大勢力を誇ったパノラマカーであるが、1998年より廃車が始まり、徐々にその勢力は減少。今日、新ダイヤ改正前夜を以て通常ダイヤにおける営業運転を終了する。
老朽化、省エネなどなど、さまざまな理由はあるものの、無料で乗れる展望車という存在、クロスシート急行車という存在そのものが、後継車両を持たず、遂には展望車をもたない特急車両に押されるように、その存在に終止符を打ち、鉄路の果てに車両としての終点を迎えることとなる。
最後の電車に、乗るのが乗り鉄、最後の電車を撮るのが撮り鉄、と、いわれているが、当方は、そういった戦闘地域となりがちな状況はあえて避けたい所存。混雑を避けるべく、パノラマカーの始発に乗車することとした。しかし、0530時に到着した名鉄岐阜駅には既に展望車を確保するべく並ぶ人の姿があり、改めてパノラマカーの人気を再認した。
0559時名鉄岐阜駅発の知多半田行き普通。先頭車は7011号。個人的に思い入れのある列車であるが、名鉄岐阜から乗るのは何年振りだろうか。運転士が表示板を確認し、いよいよ運転台に乗り込む。知多半田行き普通は、通常ではこの時間帯に考えられないほどの乗客を乗せて発車する。
この編成は、特急車両として、座席指定席運用を想定し、車内の内装を改めたもので、転換式クロスシートが、セパレートに近い形状のものとなっている。かつては、カーペットまで敷いて、優等列車として運行されていた車両だ。ただし、特急としてよりも、本数では普通電車や急行として運用されることが多く、一種の乗り得電車であった。
もともと、パノラマカーのは、国鉄急行車や一部特急にさえ冷房車が無かった1961年に、冷房を標準装備、加えて転換式クロスシートを配置し、展望車を取り付けて営業運転にデビューした。当時、名鉄には、戦前の旧型車や戦時急造型電車の姿もあったなかで、文字通り群を抜いた存在であった。
展望車を設けている他にも様々な気配りがあり、たとえばこの窓辺。眺望の良い連続窓とカーテンはもちろんのこと、この広さと、この窓辺の高さというスペースは、ジュースを置くのに丁度よく、もたれるにも心地よい場所。こういった気配りの有無は、例えば183系特急などと乗り比べると大きい。
岐南駅にて通過待ちのパノラマカー。2000形特急、2200形特急が次々と追い抜いてゆく。まだ暗い早朝の名古屋本線を勢いよく新鋭特急が走る中、落着きを払って7000形は出発した。京阪や阪急では、クロスシート特急車を旧式化に伴いロングシート化し通勤車としたが、名鉄は、そのまま長距離普通電車として運用した。所要時間2時間に達する運用もあるため、クロスシート車にて運用する意義は大きい。
展望車に対向する急行電車の姿が見える。デジタル速度計にはパノラマカーがデビューした1961年と同じ61という数字が映っているのが面白い。パノラマカーは、前述したように特別料金を必要としない車両であり、これはデビュー当時も同じであった。当時は、国鉄東海道本線が非常に遅く、競合する対象は、自由自在なライフスタイルに対応していた自家用車であった。
名鉄は、かつて500km以上の路線網に、名古屋と中心とした中小都市を結んでおり、例えば京阪神を結ぶ関西私鉄や首都圏私鉄のような大量輸送需要が必ずしもあるわけではなく、いわば、散在するベットタウンと名古屋を結び、休日には自動車に対抗し行楽輸送に対応する必要があったわけで、必ずしも通勤車として最適ではない車内配置には、必要とする背景があったわけである。
こうして、特急から急行、そして有料の指定席特急にも対応し、普通電車としても活躍したパノラマカーであるが、曰く省エネ、曰く老朽化により廃止されることとなり、本日がその最終日である。しかし、省エネといっても六両編成の7000形を四両編成のロングシート5000形に置き換え、足りない座席は乗客に立っていてもらうという省エネ。老朽化とはいっても急行車そのものを廃止する勢いでの廃止は、文字通りサービスの低下であり、残念ながら並行する東海道線にはJR東海の満員の313系が走っているという現状だ。
考えさせられることは多い中で、パノラマカーは30分余りの時間を満喫させつつ名鉄一宮駅に到着。当方含め数名が、隣に追い付いてくる特急豊橋行に乗り換える。時計を見れば0626時、中には、名古屋駅にて新幹線に乗り換え東京に、という人も居たようだ。なるほど、のぞみ号ならば八時半には東京だ。当方は、特急にて金山に先回り。パノラマカーについて、個人的に最も思い出の多い金山橋のあったあたりで撮影するのだ。
この時間帯は、上下2本のパノラマカーが通過する。ここで、いつもお世話になっているC.ジョニー氏と合流。最後のパノラマカー撮影は、練りに練った撮影技量を活かし、あえて流し撮りに挑戦。八両編成の7000形&5700形、新鵜沼行急行が0711時金山着を目指して通過してゆく。単なる沿線の一風景なのだが、それでも多くのファンがカメラを並べていた。
パノラマカー知多半田行き普通、先程乗車していた電車が0716時に金山駅を発車し、神宮前駅に向かって進んでゆく。当方にとって、最後の通常運行パノラマカー撮影の機会となる。この日に、この場所でこの電車を撮影できたというのは、本当によかった。明日から名鉄は新ダイヤに移行、恐らく臨時運行と、特別列車としてパノラマカーは維持されるのだろうが、気軽に乗ることができ、特別料金が不要なパノラマカー、という存在は、今日、最後の運行を以て終了する。
HARUNA
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