F-Xは何を担うか
F-4EJ改の後継、航空自衛隊の次期戦闘機選定に際して、航空自衛隊は次期戦闘機をどのように運用するかという視点が何よりも重要である。
このF-X選定、問題の概括を冒頭に記したい。要撃戦闘機として運用を重視するべきか、 支援戦闘機としての運用も念頭に置くべきなのか、という視点。既存の航空自衛隊作戦機との整合性・補完関係をどのようにみるのかという視点。技術取得を重視するのか、それとも機体そのものの導入を重視するのか、という視点が必要となるだろう。
第一には、要撃戦闘機としての運用を重視するのか、それとも支援戦闘機としての運用を重視するのか、ということだ。もちろん、今日的には純然たる要撃機として設計された航空機は無く、多用途性能、つまりマルチロールファイターとしての運用が設計には盛り込まれている。この中で、要撃機として運用する場合は、F-15J近代化改修機との補完関係を如何に見積もるか、という視点が重要となる。視点のひとつには、例えばステルス性を考慮した機体とを組み合わせた協同交戦能力の行使により、少数機にて航空優勢を確保する一手段とする方策を採る視点も必要となろうが、もうひとつ重要な視点がある。
それは、新規調達の0.4~0.5倍にあたるF-15Jの近代化改修の費用を圧迫しない程度に、経済性、これは初度調達品や教育訓練、運用コストを含めたプロジェクト全体のコストを意味するのだが、この視点が重要となってくる。例えば、F-22AやF-35といったステルス機は、高射の場合取得までの期間という問題も含めなければならないのだが、概して調達コストは高く、加えて、日本が取得する場合、これらの航空機は、技術供与に機密保護という障壁が加わり、日本国内での例えば三菱重工などによるバックアップ体制が認められない場合には、部品の供給面において、これまでのようなライセンス生産が認められた機体とは異なり、その入手に一定の時間的制約が加わることが予想される。つまり、稼働率が低くなる可能性を踏まえなければならない。高コスト化による調達数の下方修正と、機密保護の観点に起因する部品調達の困難化により稼働率が低下する可能性も考慮しなければならず、即ち、作戦機そのものの下方修正に繋がる可能性も有している訳だ。
支援戦闘機として運用する場合には、要撃機とは異なり、XASM-3超音速対艦ミサイルのような国産の各種装備を運用することを視点に含めなければならなくなる。既存の外国製空対艦ミサイルを取得する場合と比べた場合、日本の国産装備を採用できるということは、運用隊形に適合させた装備を自主開発できるという視点が喧伝されるが、それだけではない。特に日本が外国製装備を輸入する場合、相応の実績や比較研究、場合によっては国際公募によるトライアルを実施する必要性が生じるため、最新鋭の装備であっても、自衛隊に制式化されるまでにある程度の陳腐化を見込まなければならなくなる。
もちろん、すべてを国産する必要はないものの、運用効率上国産かが望ましい装備というものはあるわけで、付け加えれば、これは前述した部分とも重複するが、国産装備を用いることによる“技術的奇襲”、つまり、能力をひとくすることにより、抑止能力を高めることも、選択肢に含めることができる。支援戦闘機としての運用をある程度重視するのであれば、外国機を導入する際、火器管制装置のソースコードがどの程度開示されるのか、という点、特に日本が独自に書き換えることができるのか、という視点も重要となる。
忘れてはならない視点として、次期戦闘機の導入による技術的取得をどの程度見積もるべきであるか、という点。ライセンス生産による日本への技術蓄積を重視するのか、それとも、有償軍事供与(直輸入)としてでも、機体そのものを導入することに重点を置くのか、ということだ。直輸入する場合は、もちろん、機密保護の観点からライセンス生産が認められない、という状況も考えられるし、次期戦闘機の調達数が数的に新しく生産設備を整備してのライセンス生産が経済的に見合わない場合において採る、という方法も考えられる。もちろん、直輸入する場合には、日本国内での技術基盤を維持するという観点を忘れてはならず、F-15の近代化改修やF-2の能力向上により、最低限の技術基盤を維持させる、という手法も想定に含めなければならない。
もうひとつは、退役までのライフサイクルコストを視点に含めてもいいのか、それとも含めないのか、という視点だ。そのひとつが段階近代化改修。例えば、欧州共同開発のユーロファイタータイフーンは、現在搭載しているECR-90レーダーに代えて、先進的なAMSARレーダーの搭載を目指した研究開発が進められている。もちろん、近代化改修は、定期整備とともに適宜実施することも可能であるが、レーダーやFCSの抜本改修となると、経済的負担が大きく、加えて、例えば、現状の取得機に認められたソースコードの開示が最新技術においても認められる余地があるのか、という観点も加えて、選定を行う必要がある。仮に、近代化改修への大規模な負担を極力抑えるというならば、いわゆる“伸びしろ”に当たる、つまり将来発展性を考えるよりも、むしろ、完熟した、つまりこれ以上発展の余地の無いともいえるのだが、そうした航空機を選定したほうが、場合によっては抑止力の整備には、即効性を発揮できる。例えば、F-15Eに最新鋭のAPG-70/SARレーダーを搭載したモデルや、F/A-18Eに同じく最新鋭のAPG-79AESAレーダーを搭載した機体を導入したほうが、即効性の高い抑止力の形成には役立つ。
また、現状のF-4EJ改の旧式化の状況によっては即時調達をなによりも重視する場合、F-2支援戦闘機の継続調達や、F-16Cブロック60/62を選定し、ライセンス生産する場合には生産設備の互換性までは望めないものの、ある程度作戦運用面での互換性を有するという利点を重視する、という視点もあっていいのではないか。F-16は相次ぐ能力向上により、調達コストは高騰しているものの、検討に値する案では、とも考える。航続距離が比較的短い、欧州機などのグリペンは、経済的にやや利点を有しているものの、航空自衛隊の運用思想とは合致しない部分はあるが、丘珠、松島、入間、浜松、小牧、美保、鹿屋、下地島など有事の際に分散運用する、というような運用体系の見直しとともに導入を検討する、ということも一考の価値はあるようにも思う、が現実的ではない。・・・続く
HARUNA
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