◆現行大綱の陸上自衛隊定員は15万5000名
新防衛大綱に陸上自衛官の増員が盛り込まれる方向で調整されているとのことです。人員不足が叫ばれる現状を鑑みれば必要な提案です。
自衛隊の人員不足ですが、一部の護衛艦では三交代二十四時間の態勢を敷くべきところを二交代で二十四時間の態勢を取っており、要員の稼働艦毎の融通も行われているとのことです。これでは艦としての訓練度合に上限が出てきますし、二交代としるのは陸上勤務ではなく洋上任務において事故の危険性を誘発します。
しかし、訓練事故の責任は本来無理な人員削減を強いる決定を行った政府が行うべきなのですが政府は責任逃れについては素晴らしい働きを行います。陸上自衛隊では小隊長に陸曹が充てられている小隊もあるほどで、当直幹部に陸曹が充てられるという状況も生じています。こうしたなかで、陸幕が大きな決断として意見具申を行ったようです。
即ち、年末に画定される防衛大綱に対して陸上自衛官の増員を盛り込むよう陸上幕僚監部が調整を行っているとのことなのですが、この増員が認められるのならば、海上自衛隊としても人員や艦艇数で苦労がありますし、航空自衛隊としても航空機整備費用を含め弾道ミサイル防衛に予算を捻出され空洞化した部分の再調整を要望する意見も大綱に盛り込まれるやもしれません。
防衛省、陸自1万3千人増検討 新防衛大綱で調整難航も・・・ 防衛省が流動化する東アジアの安全保障情勢や国際テロ、災害への対処能力を向上させるとして、陸上自衛隊の定員を現在の15万5千人から16万8千人へ1万3千人増やす方向で調整していることが分かった。複数の防衛省、自衛隊関係者が19日、明らかにした。
年末に策定する新たな「防衛計画の大綱」に盛り込みたい考えで、来年度から増員すれば1972年度以来、38年ぶりの規模拡大となる。 定員増は陸上幕僚監部の強い意向を踏まえ、防衛省内局で検討。陸幕は日本近海での中国海軍の動きの活発化に伴い、中国沿岸から距離的に近い南西諸島での島しょ防衛強化が特に必要と説明。
天然ガスなど東シナ海の資源獲得をめぐる日中摩擦も生じており、政府、与党の理解が得やすいと判断したようだ。 具体的には、中国が領有権を主張する尖閣諸島(沖縄県石垣市)への対応を視野に、防衛態勢が手薄とされる同県の宮古島以西への部隊配備を検討。沖縄本島の陸自部隊は現在約2千人だが、これを2020年までに南西諸島を含めて2万人規模とする構想も浮上している。http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010091901000470.html◆
人員不足ですが財政難も重なっている訳で、日本の防衛に責任が持てるのか、という事と究極のはかりにかける必要があるでしょう。危機管理や自国の防衛がままならない国では諸外国との交易や投資関係を結ぶ事は出来ませんし、抑止力が破たんした場合に専守防衛は即ち海戦がそのまま本土決戦になる訳ですから国土が焦土とならないように防衛力を整備しなければ復興までの期間も違ってきます。防衛力は最低限必要で、現状が中僕の軍拡により必要数が増大した事で、その最低限を下回っている、という状況。
ううむ、人員を16万8000名とする場合、即応予備自衛官制度はどうなるのかということと、戦車定数や特科火砲定数はどのように反映されるのか、という事が気になります。しかしそれ以上に機になるのは南西諸島に2万名の部隊を配置する、という計画です。陸海空を併せて2万名、というのならば、例えば南西諸島に二個航空団を配置して新しく沖縄地方隊と基地を建設するというのならば別なのですが、陸上要員だけ2万、というのはナンセンスです。
2万名、といいますと一個師団と二個旅団を合わせた規模、西部方面隊は人員規模で北部方面隊に匹敵する事となり、基幹部隊数では北部方面隊を抜いて最大の方面隊となります。しかし、那覇の第15旅団を第15師団に拡充して、南西諸島の奄美諸島と先島諸島に第16旅団、第17旅団を仮に新編するとして、訓練はどうするのでしょうか、それだけの人員の戦闘能力を維持する本土との補給体系をどうするのでしょうか。
南西諸島の防衛に不可欠である装備は空中機動部隊による即応能力を沖縄本島に集約し、同時に九州の重装備部隊を当該地域に緊急展開させることのできる輸送能力であり、これを支える航空優勢と制海権の確保に必要な部隊ではないか、と考えます。無論、那覇の第15旅団は、第12旅団並に四個普通科連隊規模に拡充して、宮古島などには対馬警備隊に範を執る中隊規模の部隊を配置、広く薄く沿岸監視隊も置くべきですが、しかし離島に多数の部隊を置くのには反対します。
この点で、多数の人員、2万名規模の部隊を配置する場合、仮に島嶼部に対して地下構造物と併せた永久築城による要塞化をするのならば、台湾も行っていますし賛成なのですが、要塞守備隊の訓練体系というものは教範として未知数でもあり、やはり厳しいでしょうかね。空中機動部隊を沖縄本島におく方がまともです。そしてそのために必要な航空機を、という意味も踏まえて、という意味です。
離島への重点配備ですが、太平洋戦争で包囲され、増援を受けられない状況に陥った離島守備隊は数万の兵力があったとしてもそれ以上の規模で侵攻され、対処できなかった事例が多々あります。それよりは、沿岸監視に加えて着上陸の際には即座に制海権と航空優勢を確保して補給線を遮断し、弱ったところを対処することが望ましい。
那覇の第15旅団、善通寺の第14旅団、海田市の第13旅団を四個普通科連隊基幹として、戦闘ヘリコプター12機、多用途ヘリコプター20機、輸送ヘリコプター8機、観測ヘリコプター16機を配備、特科隊と機動砲中隊に後方支援部隊を加えた編成として共通化、一方で真駒内の第11旅団、帯広の第5旅団、相馬原の第12旅団を機甲化して編成を統一化、というのが理想形の一つです。
人員の充実は急務ですが、それ以上に充足率というものを高める選択肢が先決なのだろうと思うとともにもう一つは、戦闘ヘリコプターを筆頭にヘリコプターを充実させて緊急即応能力を向上、装甲戦闘車を筆頭に機甲化を促進して戦闘の即決能力を強化する必要があると考えます。ヘリコプター、装甲車、共に防衛大綱では定数が明記されていませんが、こうした部分が防衛の基幹となる訳で、必要な予算を確保することが先決ではないでしょうか。
HARUNA
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