ごく最近のNHKラジオのフランス語の放送で沢田直先生が俗語の話をされていて、興味深かった。
隠語とかスラングというのはun argotだという。unは男性単数の不定冠詞である。この場合にun argotと不定冠詞をつけるのがいいのかどうかはわからないが、l'argotとするとargotが男性名詞なのか女性名詞なのかわからなくなるので、わざとunをつけた。
英語ならjargonとでもいうのだろうか。このjargonの中にはコンピュータ用語があって、昔知った言葉では「bugをとる」というのがあった。
bugとは虫のことだが、コンピュータ・プログラムで文法上のミスをなくすのを「bugをとる」といった。もっともこの中には文法上のミスではないが、考えの上でのミスも含まれているかもしれない。おっと、わき道にそれた。
フランス語のスラングであるが、m’etro, boulot, dodoというのがあるそうだ。訳せば、「地下鉄、仕事、ねんね」となるという。dodoについてはいつだったかの、このシリーズでも述べたが、これはパリに住む人たちの単調な日常を皮肉った表現だという。
boulotはきちんとしたフランス語ならtravailであろうし、dodoはdormirであろう。m'etroはm’etroplitainの略だというが、m’etroはそのままで通用している。m'etro, travail, dodoのいずれも男性名詞である。
日本でもよくいわれる笑い話で、日本の男性は妻に家庭では「めし、ふろ、ねる」の三語しか言わないとか。実際にこういうことは少ないのだろうが。それほど日本人男性は会社人間であるという風に思われているのである。
上の3語以外にも沢田先生が挙げているのが、la valoche, le cineche, fastocheである。ちょっとフランス語のできる方数秒考えてみてください。何を意味しているか。fastocheなんていわれると字を見ただけでは日本語の「太っちょ(futoccho)」に似ているが、発音は「ふとっちょ」ではなく、「ファストシュ」であろう。
la valocheはla valise スーツケース、le cinoche はcin'ema映画、falocheはfacile「かんたんなとか容易な」である。facileの反対語difficile「難しい」は英語のdifficultに似ているから意味が見当がつきやすいが、facileの方はどうなのだろうか。
まったく上の議論と関係がないが、先週の土曜の雑談会で、日本語の「とりあえず」という言葉が話題になった。これを英語でどういうかと私は英語の先生として勤めたことがあるという、I さんに尋ねたら、I さんではなく物理学者のEさんからfor the momentというのではないかと言われた。これはフランス語ならpour le moment(プー・ル・モーマン)というのだろう。