愛媛県の数学教育協議会の委員長をされているS先生は学習会のお知らせにあわせて彼の思いをエッセイとして書いていつも送ってくる。
その最新のエッセイの中にこの「移項と同類項の簡約」の話が出てきた。話は来月に続くのでどういう風な結末になるのかはわからないが、それを読んで考えた。
同類項の簡約と移項という概念とがごっちゃになってしまったという中学生の例を上げておられるのだが、これは実は方程式のときの等式変形のルールと恒等式の変形のルールがごっちゃになってしまったということである。
実は私も高校1年生のときにこの区別がつかなくて変な計算をしていた時代がある。だからこの間違いはかなり普遍的な間違いである。
それで高橋一雄さんの「語りかける中学校数学」(ベレ出版)になにかいいアイディアが出ているかと思って調べてみたが、そういうアイディアは出ていなかった。「語りかける数学 数 I 」(ベレ出版)も同様である。
こういうところが高橋さんの著書にどうも不満を感じる点である。もっとも生徒が間違う例が豊富なのが、彼の書の特徴であり、それが彼の書がベストセラーとなる理由であろう。
私が昨年だったかe-Learningのコンテンツ代数をまとめたときも閲読者の一人となってくれた技術者のbreezingさんと、このことで文章の内容と表現のしかたで何度かやりとりをした。
方程式と恒等式の違いの分かっている私たちでもそれをどう教えるかとか、どう認識しているかとなるといろいろ考えが違ったりする。
私は移項は単なる便宜的な考えだから、方程式においては、これは天秤のようなイメージで同じ数とか同じ式を両辺に同時に足したり、引いたりすることができるという等式の性質の方が重要と考えている。そしてそれが移項したときに符号が変えるという結果になるということを分かってもらう必要がある。
だからS先生が指摘されているような、項を単に動かしただけで符号が変るわけではないことをわかってもらうことが大切と考える。
そのときに簡単な代数式を文字タイルで表して図示をするのがいい。だが、こういうことを文章で言っただけでは中学校の数学の先生方にもなかなかわかってもらえないだろう。
同類項の簡約は同じ因数をもつ文字タイルを縦に重ねるとよい。
符号が同じものは単に足しあげるだけである。ただし、負の係数のついたタイルは斜線を引いて区別をして、この斜線のある文字タイルと斜線なしの文字タイルは一つづつ相殺させるのである。
相殺した後に残る文字タイルが簡約された文字タイルである。