「Levi-Civita記号はテンソルか」についての私の現在の理解はどうか。
「相対テンソル(またはテンソル密度)」というのが正しい答えかと思ったが、特殊相対論の範疇ならば、「擬テンソル」というのが正しい答えらしい。
内山龍雄『相対性理論』(岩波書店)には、両方が書かれてあった。石原繁さんの比較的新しいテンソルの本、『テンソル』(裳華房)では擬テンソルと書いてある。
擬テンソルは一般的には相対テンソルであるのだろうが、これは空間反転をすれば、普通のテンソルではない変換をするので、擬テンソルというのが正しい。もっとも空間反転を考えないとすると、これはテンソルであるといってもよい。
数学書でも岩堀長慶『ベクトル解析』(裳華房)ではテンソルと書いてあるが、空間反転のことを考えていないのだろう。岩堀さんくらい、偉い数学者がまちがいを起こすとはあまり考えられないのだが。
私も堂々と小著『数学散歩』(国土社)ではテンソルと書いてしまった。もちろん、そのときには愛媛県数学教育協議会を長年率いて来られた故矢野寛(ゆたか)先生からはLevi-Civita記号は相対テンソル(テンソル密度)という指摘はすでに受けていた。
もうこれは35年ほど前の1985年のことであり、愛媛県数学教育協議会の機関誌『研究と実践』に掲載された「テンソル解析における学習の問題点」というエッセイへのコメントであった。
このエッセイは私がテンソルを理解するときにとまどった点を述べたものである。そして、テンソル解析の初歩を学んで、それをベクトル解析に応用したらよいとの考えはいまでも変わらない。
そのことを知った矢野先生はいままでの自分のもっていた常識が覆されたと大いに喜んでくださった。愛媛県の数学教育において、そういう目利きの方が少なくなっているのはさびしい。
このエッセイは小著『数学散歩』(国土社)に収録された。これらのベクトル解析に関するエッセイが同書に収められているので、『数学散歩』の抄刷版である『物理数学散歩』(国土社)に古本で法外な24,000円の高値がついたり、『数学散歩』の無料のpdf文書を入手できる4つか5つのサイトがインターネット上で見られたりしたのであろう。
しかし、こういうインターネットのサイトは年明けに調べたら、それらはほぼ一掃されたように見えるがはたしてどうだろうか。
それらのサイトは著者の私の著作権を侵害はしていたかもしれないが、若い学習者には役立っていたのだろう。だから、内心複雑な心境にあるというのが偽らざる気持である。