【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

「政務活動費」は地方議員の国政選挙対策かも?「政務調査費」の藪から棒の改正に不信

2012年08月15日 17時25分17秒 | 第46回衆院選(2012年12月)大惨敗

 衆議院のホームページがあいかわらずのんびり更新されて、8月7日(火)の午前9時過ぎに発議された「地方自治法の一部改正法案」(180国会閣法60号)の衆議院議員修正案がようやく15日朝掲載されました。

 この修正案はすでにその日の正午頃採決され、可決。10日(金)の衆議院本会議で委員長報告通り修正可決され、参議院に送付されています。

 地方議会の会派に交付されている「政務調査費」を「政務活動費」にかえる修正案だったわけですが、修正案を反映すると、次のように地方自治法が改正されることになります。

〈現行法〉

地方自治法第百条

○14  普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない。
○15  前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。

これが、

〈法案が成立した場合の新法〉

地方自治法第百条

○14  普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない。
○15  前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
○15の1 議長は、第十四項の政務活動費については、その使途の透明性の確保に努めるものとする。

 ということになります。

 一目瞭然。政務調査費はその議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部でしたが、政務活動費はその議会の議員の調査研究【その他の活動】に資するため必要な経費の一部ということになっています。

 このブログは、国政政党による会派が議論する国会について論じるブログ。そして、そのうえで、各会派の意見というものをいちいち取材して「裏取り」をしているといつまでも書けないので、基本的に筆者の推測をそのまま垂れ流しているブログです。しかし、筆者なりに直接当事者から周辺情報を取材しているので、若干、先行きを見通せている部分もあり、私が元日経新聞政治部記者ということもあり、一部既存マスコミと同一視されることもあります。8月8日付エントリー(「合併特例債償還5年延長」「政務調査費を政務活動費に」衆議院総務委員会には透明性の確保を求めたい)はすでに反響を呼んでいて、一部団体による参議院総務委員への働きかけが始まっているようです。まず、なぜ既存マスコミがこの件を書いていないかといえば、単純に気付いていないのだと考えます。そのうえで、各党(各会派)の理事に直接取材しても、どの党が主導してどういう経緯で修正案が提出されたのか、各党(各会派)が一致した内容の記事を書けないのだろうと考えます。

 ですから、このエントリーはいつも以上に憶測です。

 このように政務活動費が会派に支給されることになると、特定の組織の強いネットワーク政党の議員が国政選挙の応援のために、交通費や宿泊費などに充当できるのではないでしょうか。例えば、タクシーを借り切って、近所の人を期日前投票所までお連れする。この行為は公職選挙法上問題ありません。そのうえで地方自治法100条やそれによる条例上も合法になるかも。あるいは、全国の一部地域にだけ小選挙区候補者を立てる政党ならば、年に4回ほど会派に支給される政務活動費を会派責任者が区分経理しておいて、例えば「北海道会派視察旅行」ということで、交通費、宿泊費を一括して支出しても、問題ないことになるでしょう。

 手元で計算してみました。あるネットワーク政党ならば、自治体の規模や財政力によって政務活動費の金額は大きく変わってきますが、自治体の規模によって、1議員あたり、1ヶ月平均で、5万円~8万円~11万円ぐらいの政務活動費を国政選挙のための交通費などに振り向けるとすると、その政党が総務省から交付されている1年間の政党交付金と同じ金額が出てくることになります。

 東京のある区では、ある政党の区議会議員が沖縄県のタクシー代の領収書を政務調査費に添付したことなどがから、その会派の区議会議員と、同様の問題があった他会派の議長が全員辞職したケースがあります。しかし、政務活動費ならば沖縄県のタクシー代も法律上の問題はないのではないでしょうか。なによりも、鉄道会社のキップには名前が書いてありません。そのキップの領収書に名前が書いてあっても、キップに名前が書いていない以上は、その支出先の捕捉には限界があるのが当然です。

 総務省のホームページによると、2012年10月1日時点で基礎自治体の数は1719。これに東京23区と47都道府県を加えると、1789自治体に議会があることになります。政務活動費の交付の対象、額、および交付の方法は条例で定めなければならないということになると、政務調査費の頃よりも多い額の政務活動費を計上する条例・予算となる自治体がでかねません。現在の日本の地方自治では、平成の大合併を避けた富裕団体(不交付団体)の村議会もあります。そこで例えば1議員あたり月額80万円だとか、そのくらいのけっこうな額の政務活動費が条例制定、予算計上されても、村民でない国民がチェックしたり、口を出したりするのはなかなか難しいでしょう。 

 やはり、突然朝9時に発議され、正午に可決した国会運営に不信感をぬぐい切れません。政権政党・民主党としては、この第180通常国会の3月30日に、総務副大臣と総務大臣政務官が改正消費税法の法案の閣議決定に抗議して辞職。さらに、6月26日、消費税法案の衆院採決をめぐって、別の総務大臣政務官が辞任し、院においても総務委員長が党議に造反し辞任しました。この会期中に、2段階にわたり、政府の政務三役、院の総務委員長・筆頭理事がメンバーチェンジするなかで、自民党や公明党の理事が頃合いをはかっていたのではないかという邪推もしたくなります。

 なお、社民党は法案に反対していますが、社民党幹事長を兼ねる重野安正・総務委員は、討論の中で「政務活動費の修正案には賛成するが・・・」と演説していました。

 地方議員が多い日本共産党が反対した背景には、伝統的に地方議会での対立関係にある公明党が賛成していることも大きいのだろうと感じます。そして、なにより、地方選挙では無所属を名乗っている自民党員の町村会議員というのが自民党の最大の強みですから、こういうのが選挙や日常活動に回るのではないかと勘ぐっています。

 自民党の谷公一さんが7月31日(火)の法案審査で「そもそも、この法改正は阿久根市の問題が大きな要因となっているでしょう。そういう実例が出たから法改正という話が出たんじゃないですか。もともと、戦後数十年、この後で質問します専決処分対象で、副知事とか副市長、前の助役などは専決処分してよかった。数十年、何も問題なかったんですよ」と発言しています。まさか、この時点で、谷さんが自民党の部会などで修正案の協議がされていると知っていたとは思いたくないですが、そういう不信感を持たざるを得ないということを言いたいのです。

 英国議会のように、金曜日に翌週の会議日程を発表したり、米国議会のように、インターネット中継画面には常に今後の会議日程を公表しておくようでなければ日本の議会もいけません。衆議院インターネット審議中継にも、参議院インターネット審議中継にも、今かかっている法案のクレジットがありません。しかも、修正案はきょうホームページに出ましたが、すでに5日前に衆議院本会議を通過済みです。

 ところで、このエントリーを書くにあたり、政務調査費が地方自治法100条だということを初めて知りました。いわゆる百条委員会の根拠ですが、議会図書館の来てもあります。議会としての議員の他自治体への派遣の規定もあります。過去の最高裁判例では次のようなものがあります。「国民体育大会に付随して行われた議員交流野球大会に議会が議員を派遣したことは違法ではないが、現実に意見交換や相互交流などが行われた事実がなかったことを総合して旅行命令が違法だった」との判例があります(平成17年1月17日最高裁判例民集57・1・1)。逆に言えば、例えば、「我がまちの少年野球の現状」について話し合えば、議員交流野球大会への税金による旅行命令も合法ということになります。旅行命令に限らず、会派に支給された政務活動費を通じて、そのような支出をしても、合法という判断がされる可能性が高いでしょう。それを各自治体ごとに条例で決めるとなると、我々有権者はとてもじゃないけど、チェックしきれません。歴史ある組織政党ならば、会派責任者に通知して、自治体から会派に支給されたときに区分経理してしまえば、やりやすい。民主党は県連によっては、そういう組織だった行動はなかなかできませんが、大阪維新の会よりは現職地方議員が多いのですから、既成政党同士で利害が一致するかもしれません。第45期衆議院では、政治家のサラリーマン化をみることが多いですが、地方議会も含めて、政治がより一層、会社化・サラリーマン化していく改正法案のように思えます。先週、浜田幸一元衆議院議員が亡くなりましたが、国・地方問わず、自民系の声のでかさで存在をアピールするオッサン議員が懐かしい昨今です。

 参議院総務委員会(草川昭三委員長)でのしっかりとした議論をのぞみます。

 やるなら堂々とね。

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