【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

参議院決算委員会、平成22年度予備費使用調書を可決 きらりと光る自民党

2012年08月20日 20時34分26秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

[画像]山本順三・参議院決算委員長、自民党参議院インターネット審議中継からキャプチャしました。

【参議院決算委員会 2012年8月20日(月)】

 お盆明け国会初日は、参議院決算委員会が、平成22年度決算(案)の省別審査4回目をやりました。国会では珍しく、決算審査に関しては、衆参の先議はなく、どちらも自由に審査できます。政権交代後の第45期衆議院では、平成21年度決算(麻生内閣が編成し、鳩山内閣が補正)が衆議院で継続審査になっているというていたらく。しかし、参議院では、平成22年度の省別審査も4回目ということで、会期末までに平成22年度決算(鳩山内閣が組み、菅内閣が補正、最後の3週間で震災への予備費使用急増)の審査を仕上げることができそうです。

 決算は衆参とも審査できるのですが、予備費の使用調書を衆議院先議になっています。衆議院決算行政監視委員会は参院からのプレッシャーを受けて、平成22年度予備費使用調書を7月31日に衆議院本会議で承諾し、参議院に送りました。平成21年度決算が審査しきれていないのに、なぜ22年度予備費使用調書だけ審議して、参院に送付できるのか。そこに理はありません。

 そして、参議院決算委員会は、きょうの午後1時のスタートの段階で、安住淳財務大臣から趣旨説明を受け、決算の省別審査と並行して、財務大臣から答弁を得て、午後6時半、承諾を議決しました。次の参院本会議で承諾が決まる見通し。参院決算行政監視委員長の新藤義孝さんは自民党ですが、参院決算委員長も自民党の山本順三さんです。やはり自民党内でも衆参ねじれが大きくなってきました。

 決算審査というと、当該年度の編成や執行にあたった人が現在の大臣ではなく、答弁は官僚ペーパーの読み上げということがよくあります。それより以前に、質問者が当該年度と関係ない質問を繰り返すのもしばしばです。しかし、農水省の省別審査では、平成22年度の民主党政権による編成、執行、補正をていねいに質問していた議員がいました。これは自民党の青木一彦さんで、ご存じ参議院のドン、青木幹雄さんの息子で前秘書です。どうしても、世襲議員は、与野党対立の怨念も含めて強いです。

 きょうは、自民党の藤川政人さんが良い質問をしました。あれ、だれかなと思ったのですが、2010年7月11日の第22回参院選で愛知選挙区でトップ当選した1期生52歳、元県議、元町職員です。青木さんとは違い、やはり平成22年度の途中から国会に来たわけですから、年度のずれがありました。経産省に関連して、枝野幸男大臣に対して、先日の日本製工作機械の中国人社員による産業スパイ事件に関して、「私は、ヤマザキマザックは地元中の地元なので、実際に行ってきました」と自らの取材の成果を披露しました。この中で、「愛知県警が捜査に入った頃には、すでにパスポートを用意していた」と悔しがりながらも、「これまでは企業イメージにかかわるので、警察に通報しないことがあったので、ヤマザキマザックへの感謝の声が聞かれた」としました。日本製ハイテク工作機械の武器製造目的での輸出に目を光らせる経済産業省の枝野大臣は、「愛知県警さんをはじめ、迅速な対応をとっていただきありがたい」としました。そのうえで、藤川さんは「これはマスコミにも出ていない話で、こういうところで言うべき話ではないかも知れませんが、捜査したときには、パソコンの通信記録はほとんど消えていましたが、中国の情報機関との通信履歴があったそうです」と語り、やや静まりかえった雰囲気がありました。

 藤川さんは「枝野大臣は、大飯原発の再稼働は苦渋の決断だったと思う」とし、国の電力会社に対する指導について、「中部電力の地元なもんですから、ちょっとうかがってきました」とまた取材の成果を披露。具体的に経産省原子力安全・保安院からの通知に関して、政府参考人にただしました。

 元町職員で元県議の藤川さんは地方交付税に関して、「実は私の地元も不交付団体(富裕自治体)で、公立小中学校はすべて温水プール、トイレはウォシュレット、冷暖房完備です」と話すと、どよめき。藤川さんの町は昭和27年(1952年)8月1日に町制施行してから、半世紀以上、まったく合併がありません。富裕自治体出身の地方議員なので、広い愛知県全域の参院選に出るうえで、物心両面の支援を得やすい環境だったのかもしれません。

 この後、自民党の世襲議員である若林健太さんが登場しました。若林さんの決算質問は昨年も現地で傍聴したことがありますが、今回も地盤がある二世らしく政治業界とは違った、企業相手の公認会計士として経験をいかした質疑でした。

 平成22年度第1次補正予算で菅内閣がつくった「円高・デフレ対策の追加の予備費」について、巨額だと指摘。日本国憲法第83条~89条近辺の財政民主主義に反するとしました。若林さんが初登院した第175臨時国会が8月6日に閉幕し、第176臨時国会が10月1日召集・12月3日閉幕。その後、第177通常国会は翌年1月24日とかなり国会休会期間が長かったのですが、予備費使用ではなく、臨時国会召集による補正予算で景気対策をすべきだっと指摘。

 若林さんは安住さんに対して、「法治国家をないがしろにし、便宜主義に走る民主党政権が、1兆円近い予備費を増額補正しました。それでいて、多額の不用額がでています。(当初予算に計上された事業と)予備費(での歳出)に重複があったのではないか。麻生政権がリーマンショックに補正予算でしっかりと対応したように、臨時国会を開くべきだった」と抗議しました。志の強さと、政治業界以外での経験の長さ、それでいて当選前の政治(麻生政権)に関心がある。自民党二世議員らしさを感じました。

 さらに、若林さんは政府に対して予備費の提出が遅れているとし、憲法87条違反だと激しく攻撃すると、自民党の同僚の山本順三委員長が「若林君、ちょっとお座り下さい」とし大臣に対して「予備費の提出が遅いということは、政府の提出が遅いだけでなく、衆議院の審査が遅い面があります。その点については、現在理事会で対応を考えています」と語りました。衆議院の審査の遅れについては、自民党の新藤さんが尖閣諸島の購入問題について石原慎太郎・東京都知事の参考人質疑をしたり、国会版事業仕分けのフォローアップ小委員会をしたりして、本業である決算審査をおろそかにしている面が否めません。、若手を座らせベテランが引き取り、反対党の安住大臣に対して説明する格好で、衆議院側の同僚を守るという、なんとも古き良き自民党らしい。衆参、老壮青、世襲と党人のバランスがみられました。

 決算審査は後日に譲り、平成22年度予備費使用調書の討論、採決が行われました。みんなの党の柴田巧さんは「過大な予備費は財政民主主義に反する」として6件中3件に反対し、共産党、社民党も一部反対しました。3件は全会一致で承諾されました。

 これで、参議院では、平成22年度の予備費使用調書が次の本会議で承諾され、両院とも承諾。平成22年度の決算審査もあと数回の省別審査としめくくり総括質疑ということになりました。今国会は定例日の月曜日にも特別委員会が衆参とも開かれ、各大臣が拘束されたので、月曜日の省別審査はこれで2回しかありませんが、定例日外にもやるなど頑張っています。

 一方、衆議院では、先議の平成22年度の予備費使用調書は承諾し参議院に送りましたが、平成21年度決算が継続審査、平成22年度決算は趣旨説明すらされていない状態。そして、平成23年度予備費使用調書7件もすでに提出され、積み上がった状態です。

 地方議会はおおむね9月から平成23年度決算審査を始めます。国会に限れば、日本国憲法で会計検査院が設置されているので、その作業分遅くなります。最近、会計検査院は頑張っていて、財政法のシメキリを4ヶ月も前倒しして9月に提出しています。ですから、来月には、平成23年度決算書も衆議院議員と参議院議員に配布されることでしょう。

 衆議院決算・行政監視委員会は、次の政権がどの党になろうとも、重い宿題が積み上がったまま。党派を問わず衆議院には夏休みの宿題が積み上がったまま。散るぞかなしき、与野党ともオトナになってください。

 改革案として、地方議会のように、毎年、特別委員会を設けて、夏の集中合宿のように決算審査をする手法もあります。

 きょうひしひしと感じたのは、野党で参議院であるという時間的余裕のなかで、自民党若手はしっかりと取材し、法律を読み、予算書を精査し、質問原稿を練り上げているということ。衆議院であり与党であることしか知らない2009年8月30日初当選の政権交代チルドレンは不幸です。ただ、それを大局的に見て、良い勉強だったと思えるためには、地元で信頼を得るしかないんだと思います。参議院では、民主党も自民党も新人を優先的に決算委員にするのがならわしとなっています。山中貞則さんが、初当選後、みんなが花形の予算委員を希望する中、自分は決算委員を審査し、大蔵政務次官時代は、決算書を読み、分からないところがあると自分で内線電話で担当者を呼び勉強していたという、水野清さんから聞いた話をまた思い出しました。毎年、お盆前後に、その話を思い起こすのも、決算を重視するかしないかということと、何か関係があるのかもしれません。

[お知らせ]

 衆議院解散の日程を別ブログで解説しています。

今後の政治日程 by 下町の太陽

 最初の1ヶ月は無料で試し読みできますので、気軽に登録してみてください。
 
「国会傍聴取材支援基金」の創設とご協力のお願い

 「小沢一郎で食べている」既存メディアはのたれ死にしても同情の必要なし。煽り(あおり)無しで、地味でも本質を見抜く政治報道を続けるために。ご支援いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

[お知らせおわり]