【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

自民党に言いたいこと 野党が解散に追い込むことはできない 民主党に言いたいこと 死ぬ気でやれ

2012年08月19日 19時41分09秒 | 第180通常国会(2012年1月~9月)一体改革

 お盆明け国会が2012年8月20日(月)午後1時定刻スタートの参議院決算委員会の平成22年度決算(案)の省別審査から再開します。第180通常国会は、はやいもので、残り会期わずか3週間、15営業日となりました。第45期衆議院も大詰めの感があり、昨日も会員制ブログに新規のご購読をいただきました。もともと、きょうは我々与党民主党主流派を引き締めるエントリーを書く予定でしたが、その先を見すえた日本政治について書きたいことがあるので、そちらを書きます。

 自民党の谷垣禎一総裁らが「解散に追い込む」というフレーズをたびたび使っていることが気がかりです。野党議員の発言の報道に限らず、新聞記事の地の文でも、「自民党ら野党は今国会中の解散に追い込むために」としています。

 しかし、野党経験の長い私に言わせれば、野党は解散に追い込むことはできません。

 自民党は「早期解散に追い込む」のではなく、与党の支持率低迷で「解散できずに任期満了まで追い込む」。あるいは、「内閣を総辞職に追い込み、任期中4人目の首相で次期衆院選を迎える」。そのいずれか。

 過去4回の内閣不信任案可決による解散(憲法69条解散)を改めてながめてみました。

 ・初めから少数与党の第2次吉田内閣のなれあい解散

 ・鳩山グループと広川グループに裏切られた第4次吉田内閣のバカヤロウ解散

 ・清和会(福田派)と番町研(三木派)に裏切られた第2次大平内閣のハプニング解散

 ・改革フォーラム21(羽田派)が政治改革関連法案廃案の責任を問うた宮澤内閣の「宮澤嘘つき解散」。

 うち、第2次吉田内閣はもともと少数与党。そして、その後の3回はすべて与党議員が内閣不信任案に賛成(宮澤嘘つき解散の羽田派35人中34人)したか、欠席(バカヤロウ解散の鳩山グループ・広川グループ、ハプニング解散の福田派・三木派)したかのいずれかです。衆議院の過半数により内閣総理大臣が指名されている以上、衆議院だけに提出できる内閣不信任案が可決されるというのは与党内の混乱がなければありえない話です。

 そこで、野党経験豊富な当ブログ内から次のエントリーを紹介します。第44期衆議院(第20・21期参議院)で、麻生内閣時代の2008年11月14日、野党第1党の民主党内で非主流だった馬淵澄夫さん、岡田克也さんの話をまとめたエントリーです。

[当ブログ内エントリー「解散風を吹かすな」「本部を頼るな」党内“野党”が積極発言から抜粋引用はじめ]

 (前略)
馬淵さんは「不易塾」日記11月10日付エントリーで、首相の解散引き延ばしに対する執行部の対応について、「麻生総理のハラひとつなんだからもはや、モードを切り替えましょうよ」と注文を付けました。

 「解散しないならしないで、とことん国会審議をやろうじゃないか。任期満了まで、国会で論戦を繰り広げようではないか」と提案。

 「民主党奈良県連では選挙体制解除は指示していない」と強調しました。前回総選挙で、近畿地方の「1区」で唯一小選挙区を勝ち上がった馬淵さんは「逆に来年9月の任期満了まで常在戦場で戦い続けろと指示した。選挙だからといって特別のことをやる必要はない」として、「現職は、国会活動を必死にやって週末地元に戻ればとにかく歩いて回って、集会やって、街頭で訴えて、発信し続ける。新人は、国会ないんだからとにかく回り続ける」。

 厳しいようにも、優しいようにも。「解散風」に惑わされず、日常活動をしっかりやるというのは、馬淵さんのいう通りだと思います。

(中略)

  「岡田かつやTALK-ABOUT」。(略)

 岡田さんは、「香川と愛媛を回ってきました。それぞれいい戦いをしているということを実感してきました」と手応えを紹介。後援者との懇談では、やはり選挙事務所と資金問題について相談を受けたとのこと。「選挙が近いということは、これは党としては小沢代表も、もちろん私も言いました。その可能性がかなりある以上、そう言わざるを得ないわけです」として、“解散風を煽った”ことを認めました。

 「限られた資金の中で、実際の資金繰りをどうやっていくかということは、やはり候補者本人あるいはその周辺の皆さんが、それぞれの置かれた状況を踏まえて判断していくこと」と強調し、「党本部が解散が近いと言ったから、事務所を作ったからその責任を取ってくれというのは、私は違うんじゃないかなという感じがします」としました。 

[抜粋引用おわり]

 上のエントリーからも分かるとおり、選挙に強い人は、解散に追い込むのではなく、任期満了でもたたかえるように準備をしています。

 解散権は首相ただひとりにあります。与党・民主党の支持率がこれだけ低い状況で、早期に衆議院を解散するのは自殺行為です。野党・自民党は、この低い支持率のまま、来年7~9月まで解散できないように追い込んで、確実に与党・民主党を負けさせ、自民党が議席を獲るようにしなければなりません。

 もともと「time」(タイム)という概念は、明治維新後に日本に入った概念で、漱石(夏目金之助)による貢献が大きいです。『草枕』での「その時間間(じかんかん)での」というtimeを日本語にするうえでの苦心に限らず、『それから』の中で、長井代助が父と兄が馬車で急ぐ姿を認めるのに、父と兄は代助に気付かないという感覚面での「時間」の紹介があります。要するに難しいということです。

 で、英国議会の前回の任期では、ブラウン首相(労働党党首)が支持率が上がってきたので、解散しようとしたところ、支持率が5%と突然落ちるという出来事がありました。これによりブラウン首相は解散を封じ任期満了直前の2010年5月6日まで粘りました。任期満了まで追い込んだ野党・保守党は勝利し、第1党に躍り出ました。しかし、下馬評では保守党が単独過半数をとると予想されていたのに、比較第1党にとどまり、選挙で数議席減らした第3党の自由民主党との連立政権となり、キャメロン保守党党首が首相、クレッグ自民党党首が副総理に就きました。

 つまり、首相が解散しようとしたところ、なぜそうなったかは分かりませんが、支持率をがくんと下げるという現象が起きました。そこで、解散できずに任期満了直前にまで追い込まれて、労働党は負けるべくして負けました。

 ですから、自民党員は確実に、民主党を負けさせるためには、今の通り支持率が低い状態を続けさせる方がいいでしょう。民主党員は見苦しいまでに政権に執着すべきです。だから、「近いうちに信を問う」という3党首会談での野田佳彦総理(民主党代表)の言葉については、自民党の谷垣グループの人からは一方的に感謝されていい話です。「近いうち」の時期を問うのは野暮だし、中には谷垣総裁を支える立場の人まで言及するのは本質的に野党慣れしていないと感じます。自民党員は、せっかくのチャンスですから野党慣れしていてください。

 なによりも、自民党支部長には来年10月上旬選挙になっても闘えるような資金計画を立てないといけないし、それができないようなら、「仕分け」の時代の国会議員になる素質はゼロです。

 終盤国会の3週間の攻防で焦点は、「新・財政運営に必要な特例公債法案(第180国会閣法2号内閣修正)」の扱い。自民党としては、今国会の会期中に新・特例公債法を成立させない方が、秋の第181臨時国会を比較的早く召集させることへの圧力になります。国会閉会中は、与党の支持率が上がり、野党の支持率が下がる傾向があります。民主党員としては、会期末ギリギリに成立させてしまった方が、臨時国会は11月以降でよい、ということになるかもしれません。もちろん、民主党代表選で万が一代表が交代すれば、首班指名と組閣、所信表明演説と代表質問、衆参予算委員会などで9月下旬に召集し、1ヶ月前後の臨時国会が必要になり、年内はそれで終わります。どんなにフレッシュな総理・代表でも、第46回衆院選で民主党はさらに大きく負けることは自明の理です。だから、代表選の複数候補立候補はあり得ません。今のうちから投票権を行使できないかわりに党員・サポーターのみ参加して意見交換する「党員・サポーター集会」を県連や総支部で準備するというのが当然身につけておくべき与党議員の政治センスです。

 さらに、民主党は第23回参院選(2012年7月予定)の後の8月29日に解散し、10月上旬選挙に持ち込むという見苦しいまでの執着を検討すべきです。参議院で第1会派の場合は、1月ぐらいに解散して、7月の参院選に二段構えでのぞむのもいいかと思っていましたが、なにしろ、参院民主党・国民新党と、参院自民党・たちあがれ日本は、1~4議席差になりましたので、参議院の優位性を活用した衆議院早期解散戦術をとる必要はなくなりつつあります。武士道に反しかねないような、見苦しさで政権に執着する。それが政権交代可能な二大政党政治を日本に根付かせる上での、民主党第1次与党期に属する議員、党員、サポーターの歴史的使命です。

 民主党は任期満了までに少しでも支持率を回復するためには、主流派も非主流派も政府の内外を問わず、死ぬ気でやらないといけません。普通は任期中に60歳未満でも1人か2人亡くなるのが与党です。ストレスに起因したと思われる理性を欠いた犯罪をして、現行犯逮捕される議員が民主党第1次与党期に1人もいないというのも、「組織としておかしい」とすら言えるでしょう。それは奨励しませんが、政治は命懸けです。予算をしっかり組み、法案を1本でも多く通し、平成22年度決算を今国会中にあげないといけません。個別にやりたい政策は第46期衆議院に先送りして、あいさつ回りに徹する時期です。再選できないかもしれないから、東京での宮中行事には欠かさず参加しているような議員は、どんな仕事に転職しても、長期的視野を書いた、その日暮らしの仕事しか残っていません。

 いつまでもあると思うな、親と金。いつまでもあると思うな政権と党内基盤。

 残り3週間の終盤国会。菅直人さんの口癖を私も言いたい。

 「死ぬ気でやれ」。

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