サワラの塩麹焼き
ささげと万願寺とうがらしの胡麻和え
ほうれん草のおしたし
フェルディナント・フォン・シーラッハ、2016、『テロ(Kindle版)』、東京創元社
本書は法廷劇の形式スタイルを取ったシナリオである。主として被告人と参考人の証言が主として述べられる第一幕、主として検察官と弁護人による最終論述からなる第二幕、第三幕とも言うべき「評決」には、有罪判決と無罪判決の章が記される。著者は、評決を読者に委ねるのである。参審制度をもつドイツの作品であるので、読者は参審人としての役割を取らされるのである。
本書が描く事件は、テロリストが乗客164人その他乗務員を載せたまま、民間航空機満員の観衆7万人を集めるサッカースタジアムに自爆テロを敢行しようとしたところ、スクランブルで監視飛行を命じられた戦闘機小隊の隊長が命令(民間機コックピットを目視し、威嚇射撃を行い、監視を続行する)に違反して民間機を撃墜したというもので、このパイロットに対する参審裁判である。2001年9月11日のワールド・トレード・センターへの民間旅客機を利用したテロ攻撃の結果、「レネゲード」(民間航空機がハイジャックされてテロ攻撃の道具になること)の恐れが世界に知られるようになった。そのことを踏まえている。「レネゲード」となった民間航空機に対する撃墜命令の是非についても様々な議論がなされている。本書はそのことを踏まえているわけである。
わたしは、本書を読んで気になったことがある。本書の著者も本書の中で触れていることではあるが、なぜ、観衆7万人をスタジアムから避難させなかったのかという点である。ハイジャックが通報された監視センターの担当官の証言は「未必の故意」を構成するように思えるからである。つまり、ドイツ国防軍の空軍責任者、国防大臣へ通報がなされ、撃墜ではない命令がくだされたが、ハイジャックが通報されハイジャックの目的が明らかにされてから50分ほどの時間があったこと、7万人の避難は17分で可能であることも証言されている。これは、監視センターの担当官がパイロットが撃墜するであろうことを前提として(確信していたとしか思えない証言が記される)、避難を勧告しなかったとしたら、これは、担当官もまた共犯者となるのではないだろうか。有罪と無罪、どちらにもこの担当官の有罪が伴う第三の判決があったように思えるのだが。
本書の最終には、2015年1月7日におきたフランス・パリの風刺雑誌「シャルリー・エブド」社に対するM100サンスーン・メディア賞の授賞式における著者の記念スピーチが掲載されている。主張は、自由が何よりも勝るべきであるというてんである。この文章も読みごたえのあるものであるし、前半の法廷劇を再読するために意味を持つかもしれない。しかし、この自由は、法廷劇に登場する誰のものであるのかと思ってしまったのだが・・・。
本書のシナリオが今年1月に上演されて、高い評価を受けたようである。残念ながら寡聞にして知ることはなかったのだが、昨日、学生がこの演劇のことを話題にしたのでさっそく入手して読んでみた次第。いろいろと考えさせられる本書の内容であった。かつて一世を風靡したマイケル・サンデル教授の「白熱教室」も思い出されたし、また、昨今の「忖度」もまた関連事項であると思われる。
| テロ |
ェルディナント・フォン・シーラッハ |
東京創元社 |
2018-05-29 15:22:12 |
読書 |
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