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歳末読書②~デッドボールすれすれ

2014年12月19日 | 読書
 「2014読了」135冊目 ★★★

 『結婚失格』(枡野浩一 講談社文庫)


 「書評小説」…そんなカテゴリーはないだろう。しかし、章ごと(月別)に必ず一冊が取り上げられ、長短、深浅はあるにしろ著者の考えや思いが述べられている。こういうスタイルは新鮮だった。小説なんて書けるとは思わないが、書評を取り込み形を成していくことに刺激を受けた。あとがきを読むと、そもそもの依頼が書評だったことにも虚を衝かれた。


 内容は、離婚を扱った「ほぼ私小説」。最初はなんとなく著者に共感?同情?しながら読み進めていたが、途中からなんか違うと思い始めた。そこのところを解説の町田智浩が実にうまく表現している。曰く「『正しさ』と愛は関係ない。人はむしろ正しくないものを愛してしまう」…この真実になかなか気づけず、足掻く様子は滑稽でもある。「痛い」がぴったりだ。


 ライバル視?されている穂村弘が、寄稿している。ネット上の乱暴な批判にもいちいち反論していく枡野を、こう評する。「彼は捨て身の正直であり続けることができる」。自分の客観視を得意とする穂村は、その性格、行動を見事に読み切って、遠ざかりながらも、妬んでいる節もある。わかりやすい。要は、デッドボールすれすれの球を楽しめるかということ。


 町田智浩の解説が実に素晴らしく、何度も読み返した。太宰の「人間失格」とこの「結婚失格」を比較しながら進める論は、「正しくなさ」の受け止めという、文学や芸術の役割を考えさせてくれる。「居場所さがし」のようなことがもてはやされる世の中だけれど、実は何度か居場所や自分そのものを捨てるという経験がないと、手に入れられないものは案外多い。