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時は罠を仕掛ける

2017年07月13日 | 読書
 このアンソロジーに付けられた素敵な書名…「時の罠」。時の経過によって明らかにされる出来事の意味や真実といったイメージが湧く。人気作家四者それぞれの持ち味を生かした個性的な短編が並んでいる。「罠」の意味は「紐を輪状にしたもの」。もしかしたら「時の流れは残酷」などと、同様に使えるかもしれない。



2017読了75
 『時の罠』(辻村深月、他  文春文庫)

 「タイムカプセルの八年」(辻村深月)は、小学校で一時期流行った?卒業時のタイムカプセルを巡る出来事をモチーフに、主人公(父親)の心の変貌がごく自然に描かれている。埋められなかったカプセルの顛末には笑えない現実も感じるが、登場人物の個性や抱えている問題がよく象徴されていると思った。佳品だ。


 「トシ&シュン」(万城目学)は、この作家らしくやはり特徴的な文体と奇抜な発想になっている。某TV番組「世にも奇妙な物語」を彷彿させるような展開とオチでもある。小説の中で神社、鳥居、願い事などはよく取り上げられる気もするが、「入れ子構造」とも言えるこうした作品に合っているなあと改めて思った。


 「下津山縁起」(米澤穂信)は、西暦870年の文献記述に始まり、2873年の判決文に終わる、あまりにもスケール感の大きい物語。最初はなんのことやらと思う事柄が列記されるが、それが「大質量知性仮説」という言葉が出てくる頃から、ダイナミックな展開へ。様々な仕掛けがされている風変わりな逸品だ。


 「長井優介へ」(湊かなえ)にもタイムカプセルが登場する。湊作品には、ある事情を持った主人公の時系列ミステリーが多く、設定は手慣れていた。主人公のある一言がとても興味深く、それを引用しておく。「社会人になるということは(略)皆で一緒にということを重視する、小学校でのあり方に近いのではないか