すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

味わい堪能した一冊

2017年07月24日 | 読書
 小説を味わうことは料理に似ていると言えるかもしれない。特に短編集だと、お任せコースに近い感じがする。そのどれもが美味しいことはめったにないが、この一冊はどれも唸るほどだった。白い西洋皿もあれば、カジュアルな模様の器もあれば、ぴりっとした小鉢もある。読みながら酒は飲まなかったが堪能できた。



2017読了77
 『気分上々』(森 絵都  角川文庫)

 短編が9つ収められている。と言ってもわずか3ページの掌編もあれば、60ページを超す読み応えのある作品も入る。中味が多彩で、題名や出だしが上手なのにはいつも感心させられる。今回は特に切れ味がいいと感じた。文章のテンポがいいのか、それも緻密に計算し尽されている印象だ。料理に喩えたくなる味だ。


 “自己革命”を目指す女子高生の「17レボリューション」が面白かった。特に主人公の親友役イヅモのキャラが実に痛快。「客観的に生きるってのは、自分を捨てて生きるってことだよ。本当の感情を無視して設けた価値基準に、どんな価値があるっての?」…この啖呵はしびれる。どこかで再び登場させてほしいと願う。


 「ヨハネスブルグのマフィア」という恋の話も読ませてくれた。その文章表現は、美味な料理で遭遇する「おっ」「おいおい」といった感じに似ている。例えば「人間は恋の始点を選べない」例えば「一語でいうならば、希望。もしかしたら人が人に与え得る最大のギフト」…思わずウマいと唸り、ごくっと呑み込んだ。


 ラストは表題作「気分上々」。男子高校生を主人公に、やや劇画チックな展開が見事である。十代を描くのが本当に上手だ。またどちらかと言えば男子の描き方はあっさりめで、女子の方が深味を感ずるのは作家の性か。いろいろ想い巡らすと、料理素材として何が好みなのか、どんな味つけにするか等共通点が見える。