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新しい「懐かしさ」をつくる

2018年10月04日 | 読書
 新潮社『波』の「ベーシックハウスを考える」という連載は半年続いた最終回で、読まなかった時もある。

 しかし今回は「懐かしい未来に向けて」という題にも、その中味にも惹きつけられた。
 建築家である著者堀部安嗣は、「懐かしい」ということについてこんなふうに解釈している。

Volume120
 「(自分の)進化した感情、視点によって、伝統や慣習の中にある人、営為、原風景を“誇り”に思うことができるようになっているのです。懐かしい感情によって人生の中で新たな価値を見出したのです。」



 「誇り」は、人間にとって生きる支えとなる感情といっても大げさではない。
 それを大切にすることで「自分」の存在を肯定できるものではないか。

 単に昔の思い出話をしているときに浮かび上がってくる物事であっても、きっと「懐かしい」と思うのは「負の感情を抱くもの」ではないだろう。
 客観的な見方はどうあれ、個人の中では「」であり、まさしく「」につながっているのではないか。

 仮に傍からどんなふうに言われようと、法律的には許されないことであろうとも、「懐かしい」と感じた物事には、その要素があることに違いない。

 さて、堀部は仕事上のことに関わりを持ったことで、次のようにも書いている。

 「私たちは懐かしさに対して認識を誤ってしまうことが多いように思う

 つまり「昔はよかった」という「懐古的な眼差し」しか感じられないことが多いと言う。

 「固定的な『懐古の商品化』や『郷愁のパッケージ化』」という指摘は、例えば地方の多くの町興し等に関わる者は心せねばならない。
 私たちが大切にすべきは「誇り」であり、それを意識しながら新しい「懐かしさ」を作りあげていく姿勢が求められる。