和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

無地のネクタイ。

2013-02-26 | 短文紹介
新刊・丸谷才一著「無地のネクタイ」(岩波書店)が届く。
以前に「図書」に連載していたもの。
私は、連載「バオバブに書く」を読んだような気がしています。
たしか鶴見俊輔氏の連載があったので、その期間読んでいたのでした。

とりあえず、パラリパラリ。
目にとまったのは、「名前をつける」というエッセイ。
その書き出しはというと、

「日本海軍の軍艦名は趣味がよかつた。
戦艦は国名によるきまりで、伊勢、河内、薩摩、長門、武蔵、陸奥、大和など。榛名、比叡、富士、三笠など山名によるものはいはば例外だが、いづれも由緒正しく、音調も字面もよく、立派である。一等巡洋艦は浅間、足柄、畝傍、鳥海、羽黒などと山にちなみ、二等巡洋艦は天龍、利根、長良、最上、吉野といふ具合に河川のゆかりでゆく。みな風韻に富み、美しい。とりわけ心をゆさぶるのは駆逐艦で、萩、菫、椿、柿、桃、梨、梅、松、檜、榎、樺、楠、樅、杉、柳と植物で揃へたり、陽炎、雷、吹雪、白露、海風、島風、磯風、と天象づくしや気象でづくしで行つたりして、大和ことばの美を競ひながら詩情をただよはす。
いけないのは航空母艦のときである。これは空を飛ぶ瑞祥動物にあやからうとした魂胆がよくなかつたのか、漢字の取合せに手古摺(てこず)つたのか、雲龍、翔鶴、祥鳳、瑞鶴、蒼龍、大鳳、鳳翔、龍驤(りゅうじょう)、龍鳳と、何となく騒々しく、品がなく、馬鹿ばかしい。この手の艦名を評して、田村隆一は『あれでもうお終い。堕落、デカダンスね。(中略)あれでもうわかるだろ、日本の近代化の文化度が』とくさしてゐた。航空母艦はおほむね昭和にはいつてからのものだから、時代が下るにつれて海軍軍人の語感も落ちてきたのか。・・・」

うん。ついつい引用してしまいました。
これがはじまりで、そのあとに相撲の醜名(しこな)となり、
中頃から
「などと話をはじめたのは、もちろん今出来の地名について論じたいからである。」となるのでした。
うん。けなしていくのですが、最後にほめております。

「しかしめつぽう気に入つた新地名もある。一つは石川県の白山市。名山にちなんで柄が大きくまことに楽しい。・・・もう一つは静岡県の裾野市。富士を誇つて言ふほのめかし方に風情がある。・・・」(~p140)

うん。5頁ほどのエッセイで、私は満腹・満足(笑)。
困るのは、この本の残りのエッセイを読む気がしなくなること。
コメント
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