正岡子規著「仰臥漫録」の
明治34年9月21日に。
「・・・律(りつ)は強情なり
人間に向って冷淡なり
特に男に向ってshyなり
彼は到底配偶者として世に立つあたわざるなり
しかもそのことが原因となって彼はついに
兄の看病人となりおわれり
もし余が病後彼なかりせば
余は今頃いかにしてあるべきか
看護婦を長く雇うがごときは
わがよくなすところに非ず
よし雇い得たりとも律に勝るところの
看護婦すなわち律がなすだけのこと
なしを得る看護婦あるべきに非ず
律は看護婦であると同時にお三(さん)どんなり
お三どんであると同時に一家の整理役なり
一家の整理役であると同時に世の秘書なり
書籍の出納原稿の浄書も不完全ながらなし居るなり
しかして彼は看護婦が請求するだけの看護料の
十分の一だも費(ついや)さざるなり
野菜にても香(こう)の物にしても
何にしても一品あらば彼の食事はおわるなり
肉や肴を買うて自己の食料となさんなどとは
夢にも思わざるがごとし
もし一日にても彼なくば一家の車はその運転を
とめると同時に余はほとんど生きて居られざるなり
ゆえに余は自分の病気がいかように募るとも厭わず
ただ彼に病なきことを祈れり
彼あり余の病はいかんともすべし
もし彼病まんか彼も余も一家も
にっちもさっちも行かぬこととなるなり
ゆえに余は常に彼に病あらんよりは
余に死あらんことを望めり
彼が再び嫁して再び戻りその配偶者として
世に立つことあたわざるを証明せしは暗に
兄の看病人となるべき運命を持ちしためにやあらん
禍福錯綜人知の予知すべきにあらず
・ ・・・・・・・
彼は癇癪持ちなり 強情なり
気が利かぬなり 人に物問うことが嫌いなり
指さきの仕事は極めて不器用なり
一度きまったことを改良することが出来ぬなり
彼の欠点は枚挙に遑(いとま)あらず
・・・・・・・・・・」
今日ひさしぶりに
子規の三大随筆をパラリとひらくと
この箇所に栞があったのでした。
明治34年9月21日に。
「・・・律(りつ)は強情なり
人間に向って冷淡なり
特に男に向ってshyなり
彼は到底配偶者として世に立つあたわざるなり
しかもそのことが原因となって彼はついに
兄の看病人となりおわれり
もし余が病後彼なかりせば
余は今頃いかにしてあるべきか
看護婦を長く雇うがごときは
わがよくなすところに非ず
よし雇い得たりとも律に勝るところの
看護婦すなわち律がなすだけのこと
なしを得る看護婦あるべきに非ず
律は看護婦であると同時にお三(さん)どんなり
お三どんであると同時に一家の整理役なり
一家の整理役であると同時に世の秘書なり
書籍の出納原稿の浄書も不完全ながらなし居るなり
しかして彼は看護婦が請求するだけの看護料の
十分の一だも費(ついや)さざるなり
野菜にても香(こう)の物にしても
何にしても一品あらば彼の食事はおわるなり
肉や肴を買うて自己の食料となさんなどとは
夢にも思わざるがごとし
もし一日にても彼なくば一家の車はその運転を
とめると同時に余はほとんど生きて居られざるなり
ゆえに余は自分の病気がいかように募るとも厭わず
ただ彼に病なきことを祈れり
彼あり余の病はいかんともすべし
もし彼病まんか彼も余も一家も
にっちもさっちも行かぬこととなるなり
ゆえに余は常に彼に病あらんよりは
余に死あらんことを望めり
彼が再び嫁して再び戻りその配偶者として
世に立つことあたわざるを証明せしは暗に
兄の看病人となるべき運命を持ちしためにやあらん
禍福錯綜人知の予知すべきにあらず
・ ・・・・・・・
彼は癇癪持ちなり 強情なり
気が利かぬなり 人に物問うことが嫌いなり
指さきの仕事は極めて不器用なり
一度きまったことを改良することが出来ぬなり
彼の欠点は枚挙に遑(いとま)あらず
・・・・・・・・・・」
今日ひさしぶりに
子規の三大随筆をパラリとひらくと
この箇所に栞があったのでした。