柳田国男著「山の人生」のなかの、
「12・大和尚に化けて廻国せし狸の事」に出てくる
「狐憑き」の箇所が、最近思い浮かびました。
「狐憑き」で思い浮かぶ本が、わたしにはあと2冊。
原ひろ子著「ヘヤー・インディアンとその世界」(平凡社)。
こちらには、守護霊の加護を必要とする10代の年齢に、
自分の守護霊がなんであるか、それが出現する際の
状況が語られる箇所があるのでした(p342~343)。
「自ら決意して夢乞いを行なう」とあります。
うん。もう1冊を読んでいて、「山の人生」を思い浮かべたのでした。
その1冊とはマンゾーニ著(平川祐弘訳)『いいなづけ』(河出書房新社)。
その第32章に「ペストを家などに塗りつけてゆく、塗屋」と呼ばれる
流言飛語が現れて、それを患者までが信じてしまうという一部始終が
原因と時間的経緯を通して、解明されてゆきます。
ペストを塗る、塗屋がいると、勝手に思い込まされる段階を、
順をおって示したあとに、それは語られてゆくのでした。
「重病人の譫言の中に『俺がやった』と自分を責める声が出てきた。
これは他人にしてやられるのではないかと怖れていた人が逆に
自分がやった気になって自身を責めたのであろうが、その種の
譫言(うわごと)は世間にはついに犯人が白状したと受け取られた。
そうなると各人もう自分勝手になんでも信じてよいということになる。
譫言にもまして効き目があったのは、ペストに罹った連中の
ある者が錯乱状態におちいって、ペスト塗りがこうやっただろうと
日ごろ想像していた仕種(しぐさ)を本気で真似してみせた時であった。
その実演には誰しも唖然としたに相違ない。
それはいかにもあり得た事のように思えるのだが、そのことによって、
何故当時の人が皆ペスト塗りの実在を確信したのか、
何故かくも多くの年代記作者がその実在を肯定したのかが、
よく説明がつくように私には思える。・・・」(単行本・p672)