Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

傑作の欠点(6)

2023年06月24日 06時30分00秒 | Weblog
【ジェルモン】
そうです。
天使のように純真な娘を、神はお与えくださった。
もしアルフレードが、家族のもとへ戻ることを拒むのなら、娘が愛し愛される青年は、そこに嫁ぐことになっている、あの約束を拒むのです。
私たちを喜ばせていた約束を、どうか愛のバラを、茨に変えないようにしてください。
貴女の心が、私の願いに抵抗しませんように。

【ヴィオレッタ】
分かりました、しばらくの間アルフレードと離れていましょう・・・
私には辛いことでしょうが・・・でも・・・

【ジェルモン】
いや、私の願いはそうではない。
【ヴィオレッタ】
これ以上何をお求めに?ずいぶん譲歩しましたのに!
【ジェルモン】
それでは不十分なのです。
【ヴィオレッタ】
永遠の別れを、お望みなのですか?
【ジェルモン】
その必要があるのです!
【ヴィオレッタ】
ああ、嫌です絶対に!
ご存じないのですね、どれほど激しい愛情が、私の胸のうちにあるのかを?
私には友人も、身寄りもこの世にはいないということを?
アルフレードが、それらの代わりになると、誓ってくれたことを?
ご存知ではないのですか、私の体が病魔に侵されているのを?
すでに最後の時が近いというのを?
それでもアルフレードと別れろと?
ああ、あまりにも酷い仕打ちです、いっそ死んだほうがましです。
(中略)
【ジェルモン】
その美しさが時と共に消えたとき、早々に倦怠が頭をよぎる、その時どうなるでしょう
考えてください、貴女にとって、安らぎとはならぬでしょう、最高に甘い愛情も!
というのも、天から祝福された結びつきではないからです。 
 
 
 ストーリーの核心とも言うべき見事なセリフの応酬である。
 アルフレードの妹の婚約者は、アルフレードが高級娼婦「クルチザンヌ」 (詳しくは、「ラ・トラヴィアータ」のヴィオレッタはなぜ「うれしいわ!」と言って死んだのか)であると聞いて、婚約を取り消すと言ってきたため、ジェルモンはあの手この手で「アルフレードと別れて欲しい、二人の関係は”天から祝福された結びつきではないから”」とヴィオレッタに迫る。
 ポイントは、ヴィオレッタが「クルチザンヌ」であること(+その経緯)と、彼女が”友人も、身寄りもこの世にはいない”天涯孤独の身であるということである。
 彼女のモデルであるマリー・デュプレシは、ノルマンディーの行商人の娘に生まれ、アル中とDVのせいで妻に逃げられたヤクザな父から妾奉公に出され、最後はパリで八百屋に売り飛ばされた。
 だが天性の美貌を武器にレストラン経営者の愛人になり、さらに貴族に囲われるなどしてクルチザンヌに上り詰めたのである(公演パンフレットの加藤浩子さんの解説)。
 だが、ヴィオレッタ(あるいはマリー・デュプレシ)は、(パトロンはいるものの)天涯孤独の身であり、いわゆる「最後の一人」である。
 そして、アルフレード(あるいはデュマ・フィス)は、もちろん彼女の美貌のゆえでもあるが、「クルチザンヌ」であり「最後の一人」であるがゆえに、ヴィオレッタを愛するようになったのである。
コメント
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