(ネタバレご注意!)
ネオプトレモスは、オデュッセウスの指示通り、フィロクテーテースが発作に陥った隙に彼から弓矢をだまし取った。
フィロクテーテースは。弓矢で鳥獣を撃って命を繋いでいるため、これを奪われると生きていくことが出来ない。
良心に苛まれたネオプトレモスは再びフィロクテーテースのもとに向かい、「一緒にトロイアに行こう」と説得を試みる。
ここからのセリフの応酬は圧巻で、何度読んでも涙が出そうになる。
このくだりは、おそらくシェイクスピアの全作品(とはいっても全部読んだわけではないが)を超える(と思う)。
ネオプトレモス「もうよい、呪いは。さあこの弓矢をうけとってくれ。」
ピロクテテス「なに!まだわしを翻弄するのか。」
ネオプトレモス「違う。神聖なるゼウスの、たぐいない御名にかけていうのだ。」
ピロクテテス「おお、その言葉、まことならば嬉しいのだが。」
ネオプトレモス「渡すのだ、うそ偽りはない。右手を出して、あなたの弓をとるがいい。」
〔弓矢がピロクテテスに手渡されたとき、やにわにオデュッセウスがあらわれる〕
オデュッセウス「ならん!神よ証あれ、アトレイダイとアカイア人の名にかけて!」
ピロクテテス「おおだれだ、倅、オデュッセウスではないか!」
オデュッセウス「わしだ、見えないか!その小倅がなんといおうと、この手できさまを、トロイアまで引き立てていく!」
ピロクテテス「だが、もうそうはいかぬ、この矢尻が眼にはいらないか!」
〔ピロクテテス、ヘラクレスの弓を満月のようにひきしぼる。とっさにネオプトレモスがその狙いを制する〕
ネオプトレモス「ああ待て!それはならぬ、神々にかけて、その矢を射ることは許さない!」
(p442~443)
最後のネオプトレモスのセリフは、現代の刑事ものだと、弓矢が拳銃に変わって、
「やめろ!撃つなら俺を撃て!」
という感じになるところだろう。