「【第1幕】アイゼンシュタインは公務執行妨害で刑務所に入らねばならず苛立っているが、収監前の気晴らしにと友人ファルケからオルロフスキー公爵邸の夜会へ誘われる。小間使いアデーレも妹イーダから夜会に誘われ、「重病の叔母を見舞うため休みがほしい」とひと芝居打つ。アイゼンシュタインの妻ロザリンデは夫の不在を寂しがるが、その間に昔の恋人のテノール歌手アルフレードと情事を楽しもうと企む。みな表向き悲しみに暮れているが、本心はウキウキ。夫の外出後ロザリンデがさっそくアルフレードと楽しもうとすると刑務所長フランクが来て、人違いでアルフレードを収監してしまう。」
アデーレ「でも私、いまだにわかりません。そもそもなぜ、だんな様が刑務所に入れられてしまうのか。」
ロザリンデ「下っ端役人を乗馬用のムチでひっぱたいて、ウスノロ呼ばわりしたからよ」
アデーレ「そんなささいなことで?」
ロザリンデ「ウチの人、しかるべき部局には全部申し立てをしたのよ、でも、そうしても良くはならずに、むしろ悪くなるだけなのよ。」(p19)
アイゼンシュタインは、公務執行妨害罪で起訴され、判決で5日間の拘留が宣告された。
これにアイゼンシュタインが雇った弁護人のブリント博士が抗告(rekurrieren)又は控訴(appellieren)したところ、彼が法廷でどもった(Dr.Stotterbock。p33)ために、3日間の拘留が追加されてしまったというのが、アイゼンシュタインの言い分である。
これにブリント博士は反論する。
ブリント「もっぱらあなたの態度のせいで、裁判官たちの心証が悪くなったのんですし、あなたが私を、こ、こ、混乱させたんですからね。・・・」(p34)
この問題について、私はブリント博士の肩を持ちたい気がする。
「不利益変更禁止の原則」の点はひとまず措くとして、抗告審・控訴審で刑が重くなったのは、ブリント博士の弁論がまずかったからではなく、アイゼンシュタインの態度が悪かった可能性の方が高いと思うのだ。
日本特有の話かもしれないが、実は、口頭でのプレゼンが苦手な法曹(裁判官、検察官、弁護士)は、驚くほど多い。
これが嘘だと思うなら、法廷を傍聴してみるとよい。
それに、これも日本特有の話かもしれないが、刑事裁判は書面(供述調書)重視というのが実態で、多くの裁判官は書面だけで心証を形成してしまう。
なので、弁護人の口頭でのプレゼンが下手だからといって、そのことだけで刑が重くされてしまうというのは、通常は考えにくいのである。
・・・まあ、オーストリアの刑事裁判は日本のそれとは違うのかもしれないけれど。