Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

「周辺」からの逆襲(6)

2024年01月20日 06時30分00秒 | Weblog
 レシプロシテ原理が横溢する歌舞伎の世界が完全に絶望的かと言えば、必ずしもそうではない。
 ジャンルで言うと丸本物(義太夫狂言)や世話物の中に、わずかとはいえ希望の光が垣間見える。
 初台の「新春歌舞伎」のメインは、竹田出雲作「芦屋満大内鑑~葛の葉」である。

 「安倍保名の女房葛の葉は、とんぼを捕まえて遊びから帰ってきた幼ない童子に、「虫けらを殺してはいけない」とたしなめる。その家に信太の里から庄司夫婦が娘の葛の葉姫を伴い訪ねてきた。姫と保名は許嫁の間柄。庄司が外から家の中を覗くと、なんと娘と瓜二つの女が機を織っている。そこへ保名が帰宅して「はや葛の葉に逢われたか」というので、驚いた庄司は二人の葛の葉が居ると告げる。「これはどういうことだ」、保名は庄司親子を外の物置に隠して一人で家の中に入る。」 

 この物語も、出発点は、平安時代の芦屋道満と安倍保名の間における陰陽師の跡目争いであり、やはり「イエ」と「イエ」の間の抗争である。
 さて、保名の妻:「女房葛の葉」の正体は、なんと「人間以上に夫婦親子の情愛を大切にする」キツネだった。
 信太(しのだ)の森で保名に助けられたキツネは、保名と夫婦になり、子までもうけ、一家三人で保名の故郷:安倍野で暮らしていたのである。
 要するに、典型的な異類婚姻譚なのだが、ここにおけるテーマは、「イエ」と「イエ」との間の抗争という本来のメイン・テーマとはおよそ関係のない、「人間とキツネとの間の夫婦・母子の愛情」、さらには「生き物を慈しみその命を大切にする心」である。
 主人公は、人間に化けたキツネであり、物語の舞台は安倍野と信太である。
 つまり、(イエの当主としての)人間の男や(当時の首都であった)京都ではなく、異形と辺境(併せて「周辺」と呼んでおく)が前面に出てきているわけだ。
 ここでは、「イエ」と「イエ」、あるいは人間とキツネ(さらには生き物全般)との間の垣根を超越してしまうような、つまり京都の貴族の「イエ」にあっては絶対に出てこないであろう、強力なモメントが感じられる。
 そして、私は、ここ=「周辺」に一筋の「希望の光」を見出すのある。
 
コメント
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