「日本の皆様からの義援金を活用し新制作されたウクライナ国立バレエ「ジゼル」の世界初演を迎えました。お越しいただきました皆様、暖かな拍手ありがとうございました。 明日も、団員一同、皆様への感謝の気持ちを込めてパフォーマンスいたします。」
「ジゼル」はクラシック・バレエの定番演目で、上演頻度も高い。
その中で、今回のウクライナ国立バレエ団の「ジゼル」は、冒頭から”サムシング・スペシャル”なものを感じさせる。
その理由の一つは、舞台と衣装である。
日本からの義援金で制作されたという舞台セットだが、輸送には約3か月かかるため、おそらく9月には発送されたのだろう。
お金がかかっているということで、なかなか見栄えは豪華である。
衣装も豪華で、特にアルブレヒトの婚約者:バチルドのドレスはめちゃくちゃ高そう。
主役二人(怪我のため降板したミクルーハに代わるクラフチェンコ&オメリチェンコ )は、おそらく日本公演では今回が初めての組み合わせで、新鮮な印象。
クラフチェンコはジゼル役がピッタリの小柄で繊細な美少女、オメリチェンコは顔はセバスティアン・ヴァイグレにやや似ているダンス―ル・ノーブルで、二人とも見るからに気合が入っている。
錯乱するジゼルを演じるクラフチェンコは、死ぬ前の金魚のような迫真の動きを見せるし、オメリチェンコのアントルシャは「こんなに続けて大丈夫?」と思わせるほど見どころがあった。
なんだか、ふだん観る「ジゼル」とはいろいろなものが違っているのだが、最大の違いはラストだろう。
アルブレヒトが死んでしまうエンディングは初めて見たが、これはピーター・ライト版「白鳥の湖」と似ている。
考えてみれば、アルブレヒトは、身分を偽って不貞行為に興じ、自分の剣を突きつけられてもシラを切るような卑劣な男であり、相応の罰をうけておかしくない。
それに、生き残ったもののもぬけの殻のようになった彼との不幸な結婚生活を余儀なくされるというのであれば、何の落ち度もないバチルドは気の毒である。
というわけで、振付家のヴィクトル・ヤレメンコが、オーソドックスな「ジゼルによって命を救われるアルブレヒト」という筋書きを大きく改変し、「死んでジゼルと結ばれるアルブレヒト」にしたのは、ある意味では正解なのかもしれない。
総合的にみて、これまで観た「ジゼル」の中では最高だったという印象だが、さらに”サムシング・スペシャル”の理由を考えていくと、主役二人は私生活でも恋人同士ということなのか?
もちろん、これは下衆の勘繰りでしかないのだが。