パンセ(みたいなものを目指して)

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2度目の印象の希薄化(幻滅感)について

2012年11月22日 11時05分05秒 | あれこれ考えること

辻邦生の「夏の砦」は主人公 支倉冬子がグスタフ公のタペストリーの2度目の印象が、
最初の鮮烈なものと違って戸惑ったところから実質的にスタートしているが、
この2度目の印象の幻滅感(?)は普通の人でも結構経験することではないのか。

自分の経験でも、京都御所、広隆寺の弥勒菩薩、大覚寺、それらの印象は最初の驚きと感動を伴った記憶は、
2度目の対面では拍子抜けするくらいあっさりとしたもので、「あれっ、こんなだった?」と思うほどだ。

自分の印象だけで一般化する訳にはいかないが、
これは心理的な傾向があるのかもしれないと考えても不自然ではないかも知れない。
車で知らないところに出かける時、帰りの道は行きの時間よりずっと短く感じられるが、
それと同じような心理的作用が働いて、感動を希薄にさせるのかもしれない。

確かに初回の対象に向かう集中力は2回目とは随分違う。
最初は、それこそ心を奪われるといったような、自分の存在を忘れるような瞬間がある。
しかし2度目は、どこか冷めた自分がいて全部を受け入れる姿勢というより
比較対照するような態度で観察しているといったほうが正しいかもしれない。

物事を楽しむには比較対照、つまり比べることによって、その差異を感じることができ、
より深い理解を得ることができるかもしれないし、「美は(神は)細部に宿る」と言われるように、
充分な細部の観察は物事への共感を増すはずになるのだが、どういう訳か最初の感動の域までは達しない。
(その差異を他人と話し合う機会のある人は、もしかしたら、そんな事はないかもしれないが)

全く同じ物はないけれど、音楽に対する経験はどうなのだろう。
レコード(CD)と生演奏。全く同じものと言う意味では、録音されたものとの対面(聴取)が
2回目以降の印象の希薄化の検討材料になるかもしれない。

名演奏といわゆる録音されたものを聴く、
そこでもバイオリズム・精神状態・環境がピッタリと合えば、一生を左右するほどの体験となることもある。
フルトヴェングラーのエロイカ・第九・トリスタン・マーラーの「さすらう若人の歌」クレンペラーの「ミサ・ソレムニス」
リヒターの「マタイ受難曲」などはその例だ。
そしてその印象は強烈であるために、再度聴き直すことへの恐怖心も存在する。
つまり、再びあの様な素晴らしい経験をできないのではないのか!といったような。
(この意味では録音されたものの楽しみ方とは少し違っているかもしれない)
だが心のなかに沸き上がってくる、「聴きたいと」言うタイミングでその演奏に向かう時、
その世界は最初とは異なるかもしれないが、深く印象に残る場合が多い。
勿論同じポイントで心奪われることは多くて、それで一安心することもあるのだが。

最初にあげた御所・大覚寺・弥勒菩薩などは、「見たい」という心の欲求ではなくて、
単に時間的な都合上で訪れてしまうから印象は希薄になってしまうのかもしれない。
心にそうした欲求が出てくれば2度目でもガッカリすることはないのかもしれない。

ここで少し考える必要があるのは、視覚と聴覚による体験の差のこと。
人間の得る情報は圧倒的に視覚からのものが多い。そして記憶にも残りやすい。
耳からのものは幸せなことに忘れやすい。(音楽家は別にして)
そして、この忘れやすいということが何度聴いても感動を得られる秘密かもしれなしと思ったりする。

その他、当たり前だけれど個人差が存在する。
視覚的なものへの関心の多い人は、自分のような多少聴覚に重きをおいたタイプとは
違う経験の仕方をするのかもしれない。
自分は他人になれないので、他人がどうのように感じているかは、言葉による説明で理解するしかないが、
もしかしたら、忘れるという機能がなくても視覚重視の人たちは何回見ても同じような感動を得られるのかもしれない。
これは最初に、普通の人でも2回目の印象は希薄になることが多そうだと述べたこととは相反するが、
ここまで考えてきたらフトそんな思いがしてきた。

2度目の印象の希薄化。これはもう少しあれこれ考える余地がありそう。
(どうでもいいことだけれど)

辻邦生の「夏の砦」は、タペストリーの再会に幻滅感を感じた自分へ「
自分の中の何が失われていったのか?」と問い続ける。
実生活に重きを置き、時代・雰囲気など何かを象徴するリアルな小説と言うより、
一種芸術至上主義者的なトーンに満ちた様々な考察が行われるロマン的な小説だ。
読み返すには馬力が要りそうだが、読めばまたきっと感動するだろうな(2度目でも)

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