物理と数学:老人のつぶやき

物理とか数学とかに関した、気ままな話題とか日常の生活で思ったことや感じたこと、自分がおもしろく思ったことを綴る。

鶴見さんの羞恥心

2019-10-10 14:02:40 | 日記

鶴見俊輔さんは日本を代表する、大哲学者であったことはまちがいがない。

晩年の数年間、私が武谷三男の研究者であるということから、知遇を得た。これはもちろん、彼の武谷三男への信頼によっているものであったろう。

ある年の7月だったかに「愛媛九條を守る会」がその総会で、講演者を募集したことがあり、鶴見さんを人を介して実行委員会に推薦したら、うんよく講演者に決まった。

高齢であるから、京都のお宅まで迎えにあがりますと申し出たのだが、それは恐れ多いとのことで岡山の新幹線の駅まで迎えに行った。

迎えに行ったのだから、カバンぐらい持つのが迎えに行った者の勤めと思ってカバンを持ちましょうといったのだが、当然といった感じで、ご自分で持たれていた。

その車中でいろいろ話をしたのだが、何かの拍子に鶴見さんは(Harvard大学の)理学士の称号をもっておられることがわかった。それでじゃあ私と同じBachelor of Scienceですねといったら、即座に「要するにラテン語が読めないということですよ」と返事された。

哲学をHarvardで学ばれたということだが、彼の指導教官であるクワイン先生は数理論理学者であった。だから学位をBachelor of Scienceでとったのは別に不思議ではない。

だが、それさえもある種の羞恥心をもっておられるのだなと推察できた。卒業論文を鶴見さんが書いておられたときに、彼はFBIか何かにつかまって数か月の留置所生活を余儀なくされた。しかし、アメリカ合衆国政府が好ましからざる人間としても、大学は政府とは独立に鶴見さんの学位論文を認めて、卒業させたのである。

これが逆にもし日本であったならば、たとえば東京大学は時の政府が好ましからざる人間と疑った者に卒業の学位を認めるであろうか。これは大いに疑わしい。

もちろん、大学の歴史のほうが合衆国の建国よりも歴史が古いといったこともあるが、大学の自尊心をというか、国家からの独立性が顕著である。

この会の後での、鶴見さんの京都への帰路も送って行くと申し出たのだが、帰路はあまりお好きではない飛行機による空路で帰られるということになり、松山空港まで妻の運転する車で送って行った。


三角関数を学ぶ現代的意義

2019-10-10 12:17:30 | 数学
「三角関数を学ぶ現代的意義」はどこにあるか。

これはいま高校で三角関数を学んでいる人にとってという意味ではない。学校数学とはもう関係がなくなったが、また改めて高校数学とか大学の数学の初歩を学びなおしたい人にとっての話である。

三角法はずっと初期には天文学との関係でしか、関心がもたれていなかった。そして、そのつぎに地球上で距離を測ったり、土地の面積を求めたりすることでの三角測量ということでの意味があった。

そのうちに、三角形の角度が180度を超えた一般角の三角関数が必要になってきた。これはものの振動とかまたは波動とかが現代の技術の根底として必要になってきたからである。これは三角関数の周期的性質とかかわっている。

さらに進んで、関数 f(x) のFourier級数展開とかが書かれた数学の本とかも必要になってくる。

関数 f(x) のFourier級数展開は微分方程式を解く方法として考えられたのであろうが、いわゆるTaylor展開が任意の関数 f(x) を xのべきとして展開したのに対して sin nx とか cos nx での級数として任意の関数 f(x) を表す方法を与えた。ここで n は整数である。

Taylor展開の場合にはその展開の係数は微分で求めることができるが、Fourier級数展開の場合にはその係数は定積分によって求められる。

そして、これと類推的に一般の直交関数といわれる完全正規関数系で、任意の関数が展開できるなどということに発展をしていく。その典型的な関数としてはLegendre関数がある。

こういう現代的な意義を三角関数を学ぶことは隠れもっている。それらを現在高校で三角関数を学んでいる人は別に知っている必要はない。

しかし、一度学校数学とは離れた大人がもう一度高校数学とか大学数学の初歩を学びなおしたいなどと考えるときには知っておいてもらいたい。

その詳細はもちろんそれぞれの分野を学ばないとわからないことである。だが、数学の広がりをおぼろげでも感じてもらうことは必要だという気がしてきた。

理工系の大学生のためのe-Learningのコンテンツをつくるという作業を大学を退職した、15年ほど前に数年していた。だが、私に魅力的と思えるような三角関数についてのコンテンツをつくる、アディアを思いつくことができなかった。

どうしてだかわからない。ありきたりのものなら、つくることは難しくはなかったはずだが、そういうものを書きたくはなかった。展望を広くもった、現在の科学とか技術とかに関係したものを書きたかったのだと思うが、そういうものはまったく思いつかなかった。