「三角関数の水道方式を自分でつくるか」という命題に現在ぶつかっている。
三角関数を解説したテクストには事欠かないが、それがいわゆる水道方式の思想に沿っているかといえば、そうではないだろう。
遠山さんが晩年に書いた三角関数の解説は、いまでは『遠山啓著作集』(太郎次郎社)に載っている。それを先日コピーした。それが水道方式を提唱した人自身の三角関数の最後の解説と言っていい。
そのせいかちょっと普通の書にはない観点が現れている。だが、もう一つ徹底したとは言えない。
遠山さんは70歳でなくなったので、たぶんこの雑誌「数学セミナー」に書かれた解説は晩年に近いものである。ちょっとそれがいつだったかは覚えていないが、70年代の半ばであったと思う。
遠山さんは1909年の生まれなので、かなり晩年である。そのためでもあろうか、一般角の三角関数からはじめている。
三角関数の定義は単位円上の点のx座標とy座標をそれぞれsinとcos関数として定義される。
私などは
\sin \theta =x/r , \cos \theta =y/r
のほうが一般的な定義のように思うが、それらは極座標との関連から述べられている。
三角比による定義は他の定義として補足的に述べられている。そして、三角形のどこかの角度が0になると、もう三角形をなさないと述べられている。
ともかくは私の現在の関心にはかなり近い、記述である。
もちろん、遠山さんには『三角関数の研究』(山海堂)という受験参考書がある。もっともこれは受験参考書としてはちょっと程度が高いようであるが。
気が弱くて、新しいことなど自分には全くできないなどと、いつも敗北的思考の私が自分で「三角関数の水道方式をつくるか」などと考えたのだから、そういう、たいそれた計画はうまくはいかないのが、結局のところオチであろう。