直角三角形の辺の名称が昔と今ではちがっているのだろうか。
昔は現在「底辺」と呼んでいる辺を「隣辺」と呼んでいた。そしていま「高さ」と呼んでいる辺を「対辺」と呼んでいた。ちなみに隣辺とは角の隣の辺(もちろん斜辺でない方の辺)という意味であろう。また対辺は角に対した辺という意味である。
もう亡くなったY先生から教わった、三角比の定義の覚え方はこの古い辺の名称での記憶法であった。
隣/斜の対/斜は対/隣(輪車の大車は大輪:りんしゃのたいしゃはたいりん)
というのである。
ここで、隣/斜, 対/斜, 対/隣のところで / があるのは、たとえば、隣/斜が隣辺の長さを斜辺の長さでわったことを示す。以下同様である。
これは「隣辺の長さを斜辺の長さでわったものが、cosで」あり、「対辺の長さを斜辺で割ったものが、sinで」あり、「対辺の長さを隣辺の長さで割ったものがtanで」あるということを示している。
隣辺を英語ではadjacent side, 対辺をopposite side, 斜辺をhypotenuseという。ところが数学者、銀林浩氏とそのご子息の編纂されたた、『数・数式と図形の英語』(日興企画)によると直角三角形ではやはりadjacent side, opposite side, hypotenuseが使われているらしい。英語でも日本で呼ばれているように、斜辺hypotenuse, 高さaltitude, 底辺baseが使われていると思っていたのだが。
もっとも武藤徹先生と三浦さんが編集した『算数・数学用語辞典』(東京堂出版)では隣辺のことをadjoing sideと呼んでいて、私の知っていたadjacent sideではなかった。
英英辞典のWebsterを引いてみたが、どちらかがまちがいであるという決着はつけられなかった。両方とも使うのかもしれない。
いずれにしても、数学用語の英語がすぐにわかる、この武藤、三浦編『算数・数学用語辞典』(東京堂出版)は便利である。ときどき、本当かどうか疑問になることもあるけれども。
(2020.12.4付記)隣斜の定義と対斜の定義とが入れ違っていた。今日気がついて修正した。隣斜がcos関数で、対斜がsin関数であるのは当然であるが、校正がうまくいっていなかった。これは三角比ということで分子が分母よりも先に来ていることに注意をしてほしい。
昔は正弦の方が先で余弦の方が後ということで
対/斜の隣/斜は対/隣(大車の輪車は大輪:たいしゃのりんしゃはたいりん)
と順序を正弦から余弦の順にしていた。私は現代風に
隣/斜の対/斜は対/隣(輪車の大車は大輪:りんしゃのたいしゃはたいりん)
としている。
ここでどういう順番になるかが問題となるが、
隣/斜はcosで、対/斜はsin
であるから、アルファベット順と覚えたらよい。cはsよりもアルファベットでは順番が早いので。
(2024.5.13付記)
上に「アルファベット順と覚えたらよい」と書いたが、「どこかでそんな記述を読んだことがあるぞ」と思われた方もおありであろうか。その方は鋭い。
岩波の理工系の数学シリーズだったかで、広田良吾さんがコメント欄にそういうことを書かれていた。この本はまったく広田さんが書かれた本ではなかったが、確か『フ―リエ解析』だったと思う。