【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

「ユニクロの安売りは是か非か?」 民主党綱領策定へ、党改革本部(綱領、規約、代表選)が今週スタート

2011年01月31日 23時48分12秒 | 政権交代ある二大政党政治の完成をめざして

[写真]左上から時計回りに民主党改革本部の「規約」委員長の川端達夫さん、「綱領」委員長の直嶋正行さん、委員長代理の長妻昭さん、「代表選挙管理規定」委員長の鉢呂吉雄さん

 岡田克也幹事長2011年1月31日の記者会見で、「民主党改革本部」を設置し、自ら本部長に就任することを発表しました。まだ手元にペーパーがないので、正式名称などは未定稿ということで、後で時間があれば、手直ししたいと思います。

 民主党改革本部は、本部長に岡田克也さん、副本部長に仙谷由人代表代行、輿石東参院議員会長が入ります。オール民主党の意見集約が可能となりました。このほか、副本部長には、党副代表(石井一、山岡賢次、直嶋正行、鉢呂吉雄、岡崎トミ子、石毛子各議員)の6人が参加します。衆参といわゆる「グループ」も横断的。そして、岡田さんの本気さを感じさせるのは、川端達夫さん、玄葉光一郎さん(政調会長兼大臣)も入れた布陣です。当選回数・年齢とも上でありながら、第45回衆院選で「岡田代表-川端幹事長」として玉砕してくれた川端さん。そして、仮に第46回総選挙で民主党が下野した場合、第47回総選挙での与党復帰(政権交代)に向けて、おそらく代表を含めた有力ポジションで与党をめざす有力候補(そのころには50歳代前半)である玄葉さんを入れたことで、岡田さんは、10年、20年の長い目で、この国に政権交代可能な政治を定着させようとしているという確かな志を感じとりました。

 党改革本部には、規約改定委員会、綱領策定委員会、代表選検討委員会(正式名称は不明)の3つの委員会を設けます

 まず、政権交代による「与党らしい規約」ですが、これは野党時代から川端達夫さんが規約改定委員長だったのですが、2009年9月に川端さんが文科大臣として入閣後、空席でした。これについては、「与党らしい規約を」と唱えていた岡田幹事長が、総選挙で大勝したのに、直後に、幹事長を更迭されるという鳩山由紀夫代表の理解不能な人事で、小沢一郎氏が幹事長に。小沢氏は、おそらく確信犯的に後任をおかずに「幹事長命令」を連発し、ボタンをかけちがえたまま1年半もの時間を浪費しました。

 ちなみに川端さんが組織内の「UIゼンセン同盟」は2年連続で数万人の組合員数増に成功しています。これは派遣社員の組織化に成功しているからです。日本最初の労働組合としての矜持を感じます。小沢幹事長は、「100万人組合員がいるゼンセン同盟が参院選で20万票しか出せないのはサボっているからだ!」「自治労と日教組を見習え!」という趣旨のことを言っていたようですが、中小・零細企業、派遣社員、パートなど「非正規雇用」(あまり好きな言葉ではありませんが、)を網羅している「ゼンセン」が、春闘がなく政治に専念できる「日教組・自治労」の公務員労組に比べて、組合員を政治・選挙に動員しづらいのは当たり前。むしろ、労働運動の地平を広げるゼンセン同盟の自由と友愛の挑戦を、民主党は応援すべきです。川端さんは2009年5月の代表選でも、岡田候補に投票しています。

 「与党らしい規約」については、昨年9月17日の岡田幹事長復帰記者会見で筆者(宮崎信行)の質問について、岡田さんは次のように答えました。

民主党本部幹事長会見録から引用はじめ]

【幹事長】代表選挙管理規程については先ほどお答えしたつもりであります。党規約につきましては私が幹事長のときに、川端さん、委員会から提言をいただきまして、あとは党として、それを常任幹事会とか、そういうところでどう議論するかというところで幹事長が変わったということであります。あのときの提言をそのままでいいのかということをもう一度吟味する必要があると思いますが、いずれにしても、規約の改定というのもひとつ検討課題だと思います。いろいろな課題が山積しておりますので、まずこの国会で、ねじれの状況の中でどのように物事を進めていくかということのほうが、優先課題であります。そういう意味では、優先順位をつけながら、物事を進めていかなくてはいけないとそんなふうに感じているところでございます。

[引用おわり]

 というわけで、「幹事長が変わった」ことで空白期間ができてしまったわけで、民主党も早く「人治」から「法治」にガバナンスを切り替えなくてはいけません。

 次に「代表選挙管理規程」の検討委員会。これは、岡田さんの持論「与党の党首すなわち総理の任期は、衆院選から次の衆院選までにすべきだ」という改定が眼目になります。私も全く賛成です。これについては、岡田さんは以前から、たびたび言及していますし、著書でも触れています。この委員会は、自分の選挙も代表選挙も巧者で知られる、鉢呂吉雄さんが委員長に。おそらく菅直人代表・総理の今の任期(2012年9月まで)を延長して、2013年8月までに必ずある第46回衆院選の結果が出るまで、ということになるでしょう。具体的には、来年の党大会を待たずに、臨時党大会で決定する格好になると思います。自民党では、中曽根康弘首相(総裁)が2期4年の任期を延長して、続投した例があります。しかし、これと違い、あくまでも「政権交代可能な政治を担う民主党」としての理念を具体化する改定です。

 これは逆に言えば、岡田さんが第1次与党期(2009年夏~)のうち、第46回衆院選(2013年8月までのいつか)の前に、代表・総理の座を襲う考えがないことの証明でもあります。政治家・岡田克也の第一目標は政権交代可能な二大政党+αデモクラシーを日本に根付かせること。天下をとるのは2番目。育ちのいい岡田さんらしく、菅代表・総理が岡田さんに全幅の信頼を寄せて、党を任せているのも、野党時代にもコンビを組んでいて、その「志」を知っているからでしょう。一つ問題は、党員・サポーター集めのセールスポイントが無くなることです。しかし、昨年9月の代表選を見ていると、民主党員・サポーターというのは、「代表選に投票したい」というよりも、「日本政治において今民主党はどうあるべきか」を優先するオピニオン・リーダーが多いようです。ただ、組織拡大で、いろいろな人が増えてきますから、配慮が必要でしょう。

 そして、岡田さんがこれまで、「優先順位が低い」、さらには「(菅さんとの育った)世代の差かな」と、必要性がないとしていた、「党綱領策定委員会」も民主党結党後初めてできます。これは昨年来、民社協会が提言してきましたので、民社協会から直嶋正行さんが委員長になります。民主党議員には、最後まで物事を見届けない中途半端な連中が多く、昨年9月の代表選では、負けた候補者の陣営が閉会前に退席し、先日の両院議員総会では地方選のガンバロー!3唱が議題として残っているを知らずに、勝手に退席し始めた小沢系議員を「後ろの人座ってください!」「まだ終わってません!」と大声で叱り付けました。このようなときに退席するような議員は、トヨタの工場で働いたり、トヨタのクルマを運転するのは止めてほしいですね。民社協会は「原子力」に関して、政策面での自信があるので、これをうまく使って、旧社会党出身者も納得できる綱領をつくろうという考えがあるように、私は見ております。

 そして、この党綱領に関しては、昨年2月5日の予算審議で、ライバル・自民党の長老である伊吹文明さんと、当時の民主党代表の鳩山由紀夫さんに次のような興味深い“禅問答”がありました。

 
[画像]自民党長老の伊吹文明・衆院議員(NHKさん映像から)

[第174通常国会 衆・予算委 2010年2月5日の議事録から一部引用]

○伊吹委員 あなたが言っておられること、マニフェストに書いてあることとおやりになっていることは、かなり私は違うと思いますよ。
 それで、では、簡単なことを聞きましょう。総理、入学試験は認める、必要なものだと認めますか。あるいは、特許権というものの権利を認めてあげるということはいいことだと思いますか。あるいはまた、ユニクロの安売り商法というのはどういうふうにお考えになりますか。

○鳩山内閣総理大臣 入学試験、何の入学試験かわかりませんが、入学試験というものによって、ある意味でその試験によって、その成績で、当然、倍率が高いときに結論を出すというやり方は、私は十分考えられるものだと思っております。特許権というものも現実にあるわけでありますので、知的財産権の議論というのはいろいろあろうかと思っておりますが、特許権も当然存在を認めるべきだと思います。
 あと何でしたか、忘れましたが……(発言する者あり)ユニクロの安売りですか。ユニクロの安売り、その安売り商法で、これは経済にのっとってユニクロが商売されているわけでありますから、それを一概に悪いとかいいとか言うべきものではありませんし、消費者が選んでいるわけですから、よろしいんじゃないでしょうか。

[一部引用終わり]

 財務大臣、党幹事長も務めた自民党長老の実に味わい深い質問でした。「ユニクロの安売り商法?」なんだそれ?と私も思いました。伊吹さんの質問はどういう意味か。

 入学試験→学校の入学者を、試験で選ぶのは、学力による差別ではないか?
 特許権という権利を認める→特許権を持った人は独占的な生産活動で富を得られるが、持たない人はその技術を使うことができず生産もできないし、あるいは学者も学術研究ができない。
 ユニクロの安売り商法→消費者に恩恵はあるが、同業他社(とくに中小企業)の経営は厳しくなるし、また、ユニクロの周辺で働く様々な人の収入が下がるし、海外生産で産業空洞化が進めば、国民所得が減りかねない。

 で、伊吹さんが言いたいのは、党綱領がないと、こういった3つの社会的問題への「民主党としての答え」が出せないだろう。とこういうわけです。私はこれは、憲政史に残る名問答だと考えます。

 党綱領策定委員会は、直嶋委員長に加えて、委員長代理に長妻昭さん、事務局長に近藤洋介さんが就きます。長妻さんと近藤さんは記者、さらに言えば、ともに日経グループの僕の先輩です。イデオロギーが終焉した今こそ、日本と民主党を元気にする党綱領を書いてほしいと思います。やりがいのある仕事ですね~~!

 たとえば・・・

 「私たちは3000の島々からなる列島の夏にはえる入道雲のような大きな志とそのつきぬける青空のようにクリーンな志で、政権交代可能な民主政治を実現する。政策を競い、常に国民の声を聞き、既得権益者の雑音を排し、この国を内にも外にも前に進めていく勇気に満ちている。マニフェストを明確に打ち出し、その正否は総選挙における国民の信にすべてゆだねる。私たちの進む道の答えは常に国民の中にある。与党の日も、野党の日も、その議論と振るまいに責任を持ち、健全なるデモクラシーの発展のためにすべての力を結集し、行動する。それが民主党である」

 なんていうのはどうでしょうか(^_^)v

 ◇

 きょうから衆院予算委員会が始まりました。野党時代の2009年国会の予算審議は、一般質疑も含めて民主党質疑完投を果たしました。2010年国会では、与党としての予算審議ということで、戸惑うこともありました。ことしは予算案よりも予算関連法案がカギとなり、予算委よりも財金委が友達も多いし、財金委をウォッチしようかな、とも思っています。しかし、正直言って、3月末にどうなるか。不安です。はっきり言いますが、不安です。

 ドン底の国民生活を考えれば、単年度主義とはいえ、平成23年度(2011年度)予算をしっかり仕上げないといけませんが、やはり筆者も人間ですので、新しいこと、前向きなことに興味があります。ということで、未来志向で、民主党改革本部と、3委員会の動きも取材し、お伝えしていこうと考えております。もちろん、意見もバンバン書かせてもらいます(^_-)

 「党綱領をつくれ」と言って、実際に委員長になった、民社協会国会議員団長の直嶋さんが離党することなんてありえないですよね。川端規約委員長も、あるいはグループは違いますが鉢呂「代表選」委員長もしかり。これだけでも「民主党が分裂するんじゃないか」という不安をこのブログに送って下さる方(複数名いらっしゃいます)に対して、「絶対、大丈夫です、安心して下さい!」と言える。まあ、仮に党綱領策定委員長が突然離党していったら、もうどうしょうもないと民主党をあきらめます(笑)

 予算委では、総理大臣の菅さんは、馬淵澄夫さんの質問に、「ボリビアの大統領から『(わが国は)日本のようになりたいんだ』と言われました。京都大学にも2人の大学生が留学しています」として、予算委の常連ながら与党としては初めて質問に立った馬淵さんに「激励のご質問ありがとうございました!」と答弁しました。この菅さんの質問を空元気だ、と言う人。だったらどうするの? 何か対案は出せるの?

 僕自身、ちっぽけなつまらない人間ですが、子孫に美田を残したい、りんごの木を残したい。岡田本部長とともに、僕も頑張ります!


一抹の淋しさを禁じ得ない小沢一郎先生の失脚&【追記あり】小沢先生、最後の国会演説

2011年01月31日 16時01分15秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意
 1992年、自民党経世会から、改革フォーラム21(羽田孜代表)をつくり、1993年の通常国会終わりの「宮澤解散」で自民党を離党し、新生党を結党。第40回総選挙後に、細川護煕内閣(7党1会派)を樹立し、政治改革関連法案(小選挙区)が参院社会党の造反で否決された後、細川護煕首相と河野洋平自民党総裁の党首会談をセットした、小沢一郎先生が2011年1月31日、東京地裁が指名した指定弁護人から強制起訴されました。これにより、小沢先生は事実上失脚しました。私も元新生党学生部で政権交代ある二大政党政治の夢を追いかけた青春の思い出を持つ者として一抹の淋しさを禁じ得ません。


左から石川知裕さん(現衆院議員)、一人置いて、小沢一郎先生(当時新生党代表幹事)、筆者(宮崎信行)=石川知裕衆院議員のホームページから

 羽田孜さんが今期かぎりの引退を表明していますから、新生党の党首と代表幹事が同時に表舞台から去ることになってしまいました。「自立と共生」の「自立」の言葉の重みを感じます。

 もちろん、引き続き、恒三さん(渡部恒三さん)、参院に回ったピンさん(石井一さん)、前田武志さん、そして、当時1年生だった俊美さん(北澤俊美さん)は党派を超えて評価を集める名大臣に。私もまさかと思うけど、名大臣に。そして、最年少だった岡田克也さんも白髪交じりの57歳となりました。

 結党メンバーで、裏切って自民党に帰った人は、全員落選・引退しました。後から来て、自民党に帰った人は、今の同党の幹部の半分近くを占めています。大変な実力集団だったと感じます。光陰矢の如し、新進党を解党していなかったら、もっと早く政権交代が実現し、日本はここまでひどくなっていなかったと思います。

 離党勧告などと厳しいことを言う人がいますが、私はナントカ小沢先生を「党員資格停止」という穏便な処分にとどめていただけないかと思います。

 ありがとう、さようなら、小沢先生。「何一つやましいことはない」と主張する小沢先生。完全無罪が確定するまで、5年でも、10年でも、100年でもみっちりと時間をかけて法廷闘争に専念していただきたいと思います。

 日本医科大学附属病院の3つしかない特別室から見下ろす、根津神社の庭園を見るのが大好きな小沢先生。あと3ヶ月でツツジも咲くでしょう。一つの時代が終わりました。

陸山会土地取引を巡り、小沢氏を指定弁護士が強制起訴(朝日新聞) - goo ニュース

 小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」の土地取引事件で、検察審査会の「起訴議決」を受けて検察官役に指定された弁護士は31日、政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で小沢氏を東京地裁に起訴した。市民の判断によって政治家が起訴されたのは初めて。小沢氏は起訴内容を否認して徹底的に争う方針だ。

 起訴状によると、陸山会は2004年10月、小沢氏からの借入金4億円で東京都内の土地を約3億5千万円で購入した。しかし、小沢氏は衆院議員・石川知裕被告(37)ら元秘書3人=同法違反罪で起訴=と共謀し、自身が貸し付けた4億円を、陸山会の04年分の政治資金収支報告書に収入(借入金)として記載しなかった。さらに土地代金は05年1月に支払ったと偽り、04年分ではなく05年分の収支報告書に約3億5千万円の支出と資産を記載した――とされる。

【追記 2011-1-31 20:00】

 私は前々から運命的なことが多く、そのことを何とも思いません。むしろもっと鈍感になりたいと思うこともあります。小沢一郎さんの最後の衆院本会議での演説を、実際に一般傍聴席から聞いており、その傍聴記を次のようにエントリーにまとめ、しめくくりました。

当ブログ内エントリーから引用はじめ]

 僕は1936年5月7日の衆議院本会議での
斎藤隆夫の粛軍演説と並ぶ歴史的な演説に立ち会えたのではないかという充足感を携えながら、窓から見える国会広場の噴水を眺め、3階傍聴席から傍聴受付へと降りる大理石の階段を踏みしめるように降りました。

 僕は日本は必ず甦れると思います。

当ブログ内エントリーから引用おわり]

 斎藤隆夫先生の粛軍演説は議事録削除、斎藤先生は衆議院除名となります。政治とはかくも儚い(はかない)ものです小沢一郎さんも歴史の激動期に表舞台から去っていきます。その最後の、本会議演説を目撃したことになります。20分間の短いスッキリとした内容の名演説でした。これは憲政史に残る演説で、与党党首である麻生首相が所信表明演説で、野党第1党(政権準備党)に質問を浴びせかけるという異例の事態となり、野党第1党党首である小沢先生はネクスト総理(シャドウ総理)として“所信表明”をしたんです。私たちは2009年夏から、これから数百年間、この国が続く限り、政権交代可能な二大政党(プラスα)による議院内閣制デモクラシーで、国の方向性を決めていきます。日本だけでなく、アジア各国にもそのシステムを輸出していくことになります。この日から11ヶ月後に、日本は初めて選挙によって政権政党を変えることに成功します。日本人はもっと自信を持っていい。そういう、憲政史に限らず、アジア・アフリカ諸国にも伝播していくであろう歴史の一シーンだということになります。

 ここに小沢先生の最後の国会演説の全文をご紹介し、小沢先生へのはなむけとします。

第170臨時国会の衆議院議事録から引用]

平成二十年十月一日(水曜日)
    ―――――――――――――
 議事日程 第三号
  平成二十年十月一日
    午後一時開議
 一 国務大臣の演説に対する質疑
    ―――――――――――――
○本日の会議に付した案件
 永年在職の議員尾身幸次君、伊吹文明君、二階俊博君、額賀福志郎君、町村信孝君、大島理森君、甘利明君及び中川昭一君に対し、院議をもって功労を表彰することとし、表彰文は議長に一任するの件(議長発議)
 国務大臣の演説に対する質疑
    午後一時二分開議

○議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

(略)

○議長(河野洋平君) これより国務大臣の演説に対する質疑に入ります。小沢一郎君。
    〔小沢一郎君登壇〕

 

○小沢一郎君 麻生総理大臣の所信表明に対し、民主党・無所属クラブを代表して、私の所信を申し上げながら、総理の御見解をお伺いいたします。(拍手)
 まず最初に、総理大臣というもののあり方についてお伺いいたします。
 そもそも、一年足らずの間に二人続けて政権を投げ出した自民党の総裁が、総選挙を経ないで三たび、ここにこうして総理の座に座っておられるのは、信じがたい光景であります。
 与党が政権を担う能力を失ったならば、直ちに野党に政権を渡し、総選挙を行うのが議会制民主主義の筋道だと心得ますが、総理は憲政の常道というものをいかがお考えでしょうか、お答え願います。
 さて、総理の所信表明演説とは、総理自身の政治理念と、それに基づくビジョン、政策を明らかにするものであると理解しておりましたが、麻生総理の演説には、明白な理念も、具体的なビジョンや政策も、全く示されておりません。唯一はっきりしていたことは、民主党に対する誹謗中傷だけであります。
 また、演説の中で、総理が逆に野党に対していろいろと質問なさるというのも、私の三十九年間の議員生活において初めての経験であります。しかしながら、総理からのせっかくの御質問でありますので、私の所信を申し上げることにより、総理への答弁といたしたいと思います。
 近く行われるであろう総選挙は、国民の皆様に、今後も自公政権を続けるのか、あるいは民主党を中心とする政権にかえるのか、政権を選択することで国民生活の仕組みを選んでいただく、極めて重要な機会であります。
 すなわち、官僚に任せっ切りで、官僚の言うがままに莫大な税金の無駄遣いを続ける自民党政治の旧来の仕組みを継続させるのか、それとも、ここで大なたを振るい無駄遣いを徹底的になくして、国民生活を直すことに税金を振り向ける民主党政治の新しい仕組みに転換するのか、それを主権者たる国民自身に決めていただく選挙なのであります。
 では、なぜ今仕組みの選択なのか。
 私は、この二年半、北海道から沖縄まで、移動距離にして十八万キロ余りを行脚し、各地域の皆さんの生活をこの目で見て、お話を直接伺ってまいりました。
 その行脚を通じて、日本は既に中国、ロシア、米国に次いで、主要国では下から四番目の格差大国になっていることを実感いたしました。ほとんどの地域では、お年寄りも若者も、抜け出しようのないジレンマと将来不安を抱えています。小泉政権以来の、市場万能と弱肉強食の政治で生じたこの格差と不公正を放置すれば、日本の経済社会は根底から崩れ、国民生活が崩壊してしまいます。
 だからこそ、今、日本を変えなければならないのであります。坂道を転げ落ちる前のラストチャンスと言っても過言ではありません。そしてそれは、格差大国を生み出した自公政権に終止符を打ち、政治を変えることでしか実現することができません。(拍手)
 では、どう変えるのか。私たちの掲げる「国民の生活が第一。」の理念に基づいて、政治、行政の仕組みそのものをつくりかえるのであります。
 明治以来の官僚を中心とする国の統治機構を根本的に改革し、国民自身が政治、行政を行うようにする。同時に、国民生活を守るセーフティーネットをきめ細かくつくり上げます。
 具体的には、政治、行政と国民生活の新しい仕組みをつくることで、格差がなく公正で、ともに生きていける社会を築くのであります。その基本政策案は既に発表しておりますので、その柱だけを申し上げます。
 つまり、年金・医療・介護、子育て・教育、雇用、農林漁業・中小企業、生活コストの五つの分野でセーフティーネットをつくるとともに、財政構造の転換、国民主導政治の実現、そして、真の地方分権により日本の統治機構を根本的に改革し、その上に立って日本を地球に貢献する国にするというビジョンであります。
 こうした仕組みをつくることで、新しい国民生活を切り開き、その結果として、本当の内需拡大が進み、地域経済の再生から日本経済を立て直すことができると私たちは考えております。
 この新しい仕組みづくりの核心は、税金の無駄遣いを際限なく再生産している官僚任せの財政運営構造を大転換して、国の予算の総組み替えを断行することであります。
 そもそも税金は、国民のものであり、国民のために使われなければなりません。世界に例を見ない、今日までの日本の財政運営構造こそが異常なのであります。それを放置したまま、財源が足りないとか財源の裏づけがないなどと言うのは、税金の無駄遣いをしてきた側の論理にすぎません。
 国民の生活にとって何が大事か、私たちの新政権の目標である新しい国民生活をつくるために何が必要かという基準で予算の優先順位を決めることにより、私たちの政策を実現するのに必要な財源は十分に確保できるのであります。
 今こそ、国民の意思に基づき、国民の手によって、国民のための予算に全面的に組み替える、そのようにして税金の使い方を変えることが、国民生活を変え、日本を変える要諦であると私は確信しております。
 その意味において、近く行われるであろう総選挙の最大の争点は、無駄遣いを続ける今の税金の使い方を許すのか、それとも、民主党を中心とする政権にかえ、税金の使い方を根本的に変えるのかという選択であります。
 以上の考え方に基づき、私たち民主党は、総選挙のマニフェスト、政権公約を取りまとめました。この場をおかりして、「新しい生活をつくる五つの約束」を中心とするその骨格を国民の皆様に発表いたしたいと思います。
 第一の約束は、官僚の天下りと税金の無駄遣いをなくし、税金を官僚から国民の手に取り戻すことであります。
 一般会計と特別会計とを合わせた国の総予算二百十二兆円を全面的に組み替え、また、過去の税金などの蓄積であるいわゆる埋蔵金も活用して、国民生活を立て直すための財源を捻出します。国からのひもつき補助金は廃止して、地方に自主財源として一括交付するとともに、特別会計、独立行政法人などは原則廃止することといたします。また、当面は、特別会計の積立金や政府資産の売却なども活用いたします。
 それらにより、平成二十一年度には八兆四千億、二十二年度と二十三年度はそれぞれ十四兆円、四年後の二十四年度には総予算の一割に当たる二十兆五千億の新財源を生み出すことができます。また、このように税金の使い方を変えることを担保するために、多数の与党議員が政府に入り、政治が役所をコントロールできる制度に改めます。
 自公政権のもとで所得の減少と不景気の物価高にあえいでいるほとんどの国民は、家計のやりくりでも、まずは無駄を省くことを心がけ、実践しているのではないでしょうか。それと同様のことを国ができないはずはありません。それができないなどというのは、既得権益を守ろうとせんがための、へ理屈にすぎません。
 第二の約束は、年金加入者全員に年金通帳を交付し、消えない年金、消されない年金へとシステムを改めることであります。もちろん、消えた年金記録は国の総力を挙げて正しい記録に訂正し、国が責任を持って全額支払います。
 また、年齢で国民を差別する後期高齢者医療制度は廃止し、被用者保険と国民健康保険を段階的に統合して、将来の一元化を目指します。さらに、医療を機能させるため、医師は五割ふやし、看護師、介護従事者などの不足を解消いたします。
 第三に、子育ての心配をなくして、みんなに教育のチャンスをつくるために、子供一人当たり月額二万六千円の子ども手当を中学校卒業まで支給いたします。公立高校の授業料を無料化するとともに、私立高校、大学なども学費負担を軽減いたします。また、働き方や家庭の実情に応じた多様な保育サービスを支援していきます。
 第四の約束は、雇用の不平等をなくし、まじめに働く人が報われるような社会にいたします。
 具体的には、パートや契約社員を正規社員と均等の待遇にすると同時に、二カ月以下の派遣労働は禁止いたします。また、中小企業を支援しながら、最低賃金の全国平均を時給千円に引き上げてまいります。
 第五の約束として、農林漁業の生活不安をなくし、食と地域を再生いたします。
 そのために、農業の戸別所得補償制度を創設し、林業と漁業についても独自の所得補償制度を検討いたします。また、汚染米の全容解明と責任の追及はもちろん、食品安全行政を総点検、一元化して、食の安全を確実なものにいたします。中小企業については、法人税率を原則半減することなどによって再生させます。
 以上のうち、新しい政権の初の予算編成となる第一段階の平成二十一年度には、ガソリン税などの暫定税率を廃止し、二兆六千億円の減税を実施します。
 また、高速道路の無料化、子ども手当の創設、医療改革などは、二十一年度に一部実施した上、第二段階の二十二年度、二十三年度に完全に実施いたします。このような思い切った政策の実行こそ、緊急経済対策として最も有効でもあると考えております。
 農業の戸別所得補償は、二十一年度に法律を制定し、二十二年度から一部実施、第三段階の二十四年度に完全実施する予定であります。
 さらに、消費税の税収全額を年金財源として最低保障年金を確立する年金改革は、三年かけて新制度の詳細設計、法案化、法律制定を行い、二十四年度に完全に実施いたします。
 このように三段階に分けて着実に政権公約を実現し、私たちの政権が次に国民の審判を仰ぐ期限である四年後までに日本の新しい仕組みづくりを完了させる方針であります。(拍手)
 最後に、民主党の外交、安全保障の基本方針を申し上げます。
 第一の原則は、言うまでもなく、日米同盟の維持発展であります。ただし、同盟とはあくまでも対等の関係であり、米国の言うがままに追随するのでは同盟とは言えません。民主党は、米国と対等のパートナーシップを確立し、より強固な日米関係を築きます。
 第二の原則は、韓国、中国を初めとするアジア太平洋諸国と本当の友好・信頼関係を構築することであります。特に日韓、日中両国との関係の強化は、日本が平和と繁栄を続けていく上で極めて重要であると考えております。
 第三の原則は、日本の安全保障は日米同盟を基軸としつつも、最終的には国連の平和活動によって担保されるということであります。日本国憲法は、国連憲章とその理念を共有しており、また日米安全保障条約は、条文に明記されているとおり、国連憲章の理念と枠組みに基づいて制定されておるのであります。したがって、日米同盟と国連中心主義とは何ら矛盾するものではありません。
 民主党は、以上の三原則に基づいて、日本の平和を守り、主体性ある外交を確立、展開してまいります。
 私には二つの信念があります。
 第一は、政治とは生活であるということであります。先ほど来申し上げているように、政治は国民の生活を守るためのものだからであります。
 もう一つの信念は、政治とは意志であるということであります。主権者たる国民の皆様が決意をすれば、政治は変えることができるのであります。そして、日本国民はみんなで力を合わせれば、どのような困難でも必ず乗り越えることができると私はかたく信じております。
 その国民の力を最大限に発揮できるようにするのが政治の役割であり、私たち民主党の使命なのであります。(拍手)
 以上、民主党の基本政策と私の所信を申し上げました。総理の御見解を伺います。
 最後になりましたが、国会運営について申し上げます。
 米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機は、世界恐慌に発展しかねない状況になっております。当然、我が国においても緊急経済対策と各国との政策協調が必要でありますが、同時に、どのような事態にも対応できるようにするためには、政治、行政、経済の仕組みそのものの大転換を実行しなければなりません。
 したがって、日本の進路について、国会で十分に議論し、各党の主張を明確にした上で、速やかに総選挙を実施し、主権者たる国民の審判を仰ぐ必要があると思います。そして、国民の支持を得た政権が強力なリーダーシップを発揮して、このような危機に対処していくのが憲政の常道だと考えます。
 総理のお考えをお伺いし、私の代表質問を終わります。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)
    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

[引用おわり]