自民党が小此木八郎副幹事長(衆院議員)の名前で、TBSに対して同党役員会メンバー(安倍総裁と幹事長・政調会長ら)への出演や取材を拒否することを文書で伝えました。自民党本部内などにある「平河クラブ各社」に対しても、その旨を通知しました。自民党の説明によると、ニュース23で、参議院が会期末に、「電気事業法改正法案」が首相問責決議を可決のあおりで審議未了廃案となったさいに、識者の声を間にはさんだことについて、その人が仲がよいソフトバンクの社長室長が元民主党衆院議員だ、などという理由から、「公平ではない」という趣旨のことをTBSに抗議していたようです。
[日本国憲法の現行13条]すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
[同21条]集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
とありますが、これを
[自民党憲法改正草案13条]全て国民は、人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公益および公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
[同21条]集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。前項の規定にかかわらず、公益および公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。検閲は、してはならない。通信の秘密は侵してはならない。
と変えるのが自民党憲法改正草案です。
つまり、「公共の福祉」という言葉を「公益および公の秩序」に書き換えているようで、実は「前項の規定にかかわらず認められない」のだから、ときの政府の「公益および公の秩序」の判断で、表現の自由などの基本的人権が制約できるのです。
こんなの、憲法学者だって、とっさに気づかない、見事なすりかえですよ。
この場合、「公益および公の秩序」を誰が判断するか、となると最終的には最高裁判所です。しかし、その前に、「公益および公の秩序を守るため」と与党が判断して「○○規制法案」を提出して、衆参とも過半数で可決され、公布、施行されれば、最高裁判決が出るまでの期間(場合によって数年間)、行政による基本的人権の制約が可能になります。
民主党の細野豪志幹事長は、報道を受けて、「自民党が、自らの演出を見抜かれた腹いせをしている。選挙中の与党の取材拒否は報道機関にとっては致命傷になる。衆参で権力を持てば、報道機関への圧力をさらに強めるであろう。」とつぶやきました。
自民党が、自らの演出を見抜かれた腹いせをしている。選挙中の与党の取材拒否は報道機関にとっては致命傷になる。衆参で権力を持てば、報道機関への圧力をさらに強めるであろう。RT @47news: 自民、TBS取材拒否 報道内容に抗議 http://t.co/H9c6QaSVDS
— 細野豪志 (@hosono_54) July 4, 2013
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細野幹事長は5月2日(木)の定例記者会見で、翌日の憲法記念日をふまえて、自民党の憲法改正草案について、特に「改正21条」について懸念を示しました。
「(いま、この会見場で目の前にいる)メディアの皆さんにはもう少しそこは自らの目を見開いて見ていただきたいと思うのは21条です。(自民党案では)表現の自由を「公益および公の秩序」で制限できるんですね。」
「自民党の改正案は、21条の2項を加えて、そこに極端な制約をかける形になっていますが、そこはあまり私がああでもない、こうでもないと言わないほうがいいのかもしれないけれど、やはり表現の自由を公権力が規制するというのが前面に出るのは私は問題だと思いますね。権利全体に対して「公共の福祉」で、ある種の限界を設けているのは、確かに現行憲法もそうなんですが、「公共の福祉」の中身としてはこれはまさに私権同士の調整ですね。つまり、ある個人の権利がある個人の違う権利なりもしくはいろんなものを、個人同士の調整の原理として「公共の福祉」が解釈されてきたという経緯がありますので、そこを大幅に踏み越える可能性がある改正になっていると思います。それを新たに書いたほうがいいのか、もしくはそのままというほうがむしろ好ましいのか、そこは議論があるところだと思いますね」
と。
このときの細野発言は今回の「自民党TBS事件」を予言しています。
私もこの会見で質問していますが、あくまでも、憲法改正後についての想像だったのですが、まさか改正草案を先取りするとは。
今の日本国憲法では、表現の自由など基本的人権は、個別的に制限の根拠や程度を規定しないで、「公共の福祉」による制約が存在する旨を一般的に定める方式をとっています。現行12条で「国民は基本的人権を公共の福祉のために利用する責任を負う」とし、続く13条で「国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、国政の上で最大の尊重を必要とする」としています。この「公共の福祉」という言葉は日常生活では耳慣れないのですが、最高裁判所などの判例が積み重なっています。たとえば、「薬局を開くときは今ある薬局と距離を置けなければならない」という薬事法は、「公共の福祉」よりも「職業選択の自由」が重いと判決。薬事法は改正され、今のように病院の前にたくさんの薬局がしのぎを削る現状になっています。(参考文献・芦部信喜「憲法」)
一方、報道の自由と言う言葉は日本国憲法にありません。しかし、報道は事実を知らせるものであり、報道の自由も表現の自由に含まれます。これは報道のために報道内容の編集という知的な作業が行われる点から言っても、異論はありません。 さらに報道の自由に取材の自由が含まれるかについて判例は明確ではありませんが、報道は、取材→編集→発表という一連の行為によって成立する物なので、取材は報道にとって不可欠の前提。したがって、取材活動は公権力の介入から自由でなければなりません。(参考文献・芦部信喜「憲法」)
よって、自民党がTBSの取材を制約した場合、芦部先生が「報道の不可欠の前提」と断定した「取材の自由」が崩されますから、ニュース番組そのものがつくれないことになります。報道どころか同社の経営にかかわりかねない強烈なしめつけです。自民党は見えないところでしめつけてきたんでしょうが、「平河クラブ各社」に発表するとは、しめつけにも奢りが出てきたというなんだろうと推測します。
で、なぜ自民党憲法改正草案はこんなにひどいかというと、野党期につくったので、談論風発だけどバランス感覚がきかず、政権復帰に向けて、ネットウヨ、自民党サポーターズクラブに受けることを盛り込んだので、いびつな物になってしまったのでしょう。谷垣総裁(当時、現谷垣法相)がこんな草案を主導してつくったようには思えません。
私も長年の改憲論者。だからこそ、できの悪い自民党憲法改正草案はいっぺん破棄して、作り直してほしいと願います。
[細野豪志幹事長記者会見2013年5月2日(木)の憲法該当部分から引用はじめ]
(前略)
○憲法改正について
【日本テレビ・亀甲記者】
憲法96条を先行して改正するかどうかで各党スタンスが分かれている。民主党としての現在のスタンスを伺いたい。
【幹事長】
あす憲法記念日ですので代表の談話を発表したいと思います。その文面を確認していただければ、現段階の私どものスタンスは皆さんにご確認いただけると思います。 大事なことは、しっかりとどういう中身を憲法として考えていくのかということに尽きると思うんですね。幾つかの踏み込んだ我々としての提案が必要な時期に来ていると思います。
憲法調査会については長島昭久さんにも役員に加わってもらって、さらに活動をしっかりしていくことになっていますので。私自身もできれば憲法調査会そのものの会議に出席して議論の推移を見守り、必要があれば発言もしてまいりたいと思います。
96条というのはその改正をする手段ですので、それが先行することは必ずしも本来の姿ではない。むしろ国民の皆さんに、民主党は改正としてこういうことを考えているんだという中身がしっかりわかっていただけるような活動を、民主党としてしていくことが重要ではないかと思います。
もう1つは、やはり96条ということを考えた場合に、憲法について民主党と同じ考え方のグループがどれぐらいあるかということの見きわめも重要です。そういう観点からすると、例えば自民党、9条の「国防軍」の考え方、これは交戦権も認める形になりますので、これまでの考え方を大きく転換する、まさに安倍総理がおっしゃっている「戦後からの脱却」です。こういう考え方に私どもは立ちません。
さらにメディアの皆さんにはもう少しそこは自らの目を見開いて見ていただきたいと思うのは21条です。(自民党案では)表現の自由を「公益及び公の秩序」で制限できるんですね。今衆議院では自民党が過半数をはるかに超えています。参議院で過半数を超えれば、憲法改正ができるようになるんですよね。それをメディアの皆さんが本当にこぞって歓迎されるのかどうか、ここはそれぞれの皆さん、ジャーナリストとして目を見開いてごらんいただいたほうがいいと思います。
街頭でも申し上げましたが、私は3・11を経験して、非常にあの危機的な状況の中で、当時はやはり権力というものをどう運営するかということを考えざるを得ない立場になったわけです。あれだけの状況ですから、原発に対する事故の報道であるとか、さらには瓦れきの処理であるとか、さらにはその後の再稼働のときなどに例えばいろいろな報道であるとか、さらにはネット上のいろいろな情報であるとか、もう少し政府としてはこちらの伝えたいことを酌んで表現をしてもらいたいという、個人的にはそういう思いを持ちましたよ。
しかし、権力者である以上は、それを私権を制限するという形でやってはいかんのですね。私は、日本人はあの災害の危機的な状況においても、いろんなことがありましたけれども、トータルに言うと非常に冷静に行動した、そういう国民だと思います。そういった国民性を信じて、そして日本の権利、自由、一番端的には表現の自由ですけれども、守っていくというのが私は民主党のあるべき姿だと思います。
そのあたりについてのメディアの皆さんの危機感はやや薄いと思いますね。皆さん下を向いて(パソコンを)打っておられるけれども、ちょっと顔を上げてください、こういうときは。一人一人の本当にジャーナリストとしてのそこは見識に問いたいと思います。本当にそれでいいんですかと。簡単に2分の1とおっしゃっている。その先も自民党は示しています。それで本当に皆さんはいいんですか、ということを考えてください。その上で皆さんは自由に報道する権利があるわけだから、それを行使していただいたほうがいいと思います。
すみません、ややちょっと踏みこんで言い過ぎたかもしれませんが、せっかくの機会ですので。
【フラーランス・宮崎記者】
自民党の「公益及び公の秩序」という言葉は、確かに戦前の治安維持法のようなものが憲法違反でなくなるのではないかという感じがする。自民党は憲法改正草案を新旧対照表付きでつくっていて、非常にわかりやすい。議論のたたき台として、こういった憲法改正草案のようなものを民主党としてまとめるお考えはあるか。
【幹事長】
憲法改正の国民投票のあり方がまだ決まっていないんですね。ただ、どういうやり方にするにしても、まずは国民の中で合意ができるものについてしっかりと国会内で議論して、最終的に国民投票にしっかりと付していくのがあるべき姿だと思うんです。そういうことを考えれば、今の段階で民主党として最優先で変えていくべきものはどこなのかということが提案できれば、十分に今のこの時代のニーズに合っていることになると思います。例えば、幾つかの条文についてわが党として改正の具体的な案を示すことは、憲法調査会の議論を通じてあり得ると思います。そこはしっかりと議論して方向性を出していきたいと思います。
2005年の「憲法提言」は5年ほど議論してつくり上げていますので、相当練られたいい提案だと私は思っています。それをさらに具体化する作業としてどうメリハリをつけた提案をしていくのか、そこはこれからのわが党としての作業になってくると思います。
【「FACTA」・宮嶋記者】
その96条のいわゆる硬性憲法(通常の法律より厳重な手続によらなければ改正できない憲法)の考え方だが、おそらく公明党は憲法3原則のところについては硬性憲法を守りたいが、96条の入り口について緩やかにしたいようにも見える。今の民主党の主張は96条の議論についてもどうするのかいまひとつ見えない。ある程度草案とか素材を出してこないと水かけ論になる。硬性憲法の部分についてはどんな立場でやっていかれるのか。
【幹事長】
まず申し上げなければならないことは、今憲法改正に最も積極的なのは自民と維新だと思うんですが、この二つの政党とわが党とはよって立つ憲法に対するスタンスが180度違うということです。どこが違うかというと、戦後の60年以上の歴史、現行憲法の果たしてきた役割についてわが党は積極的に評価しているわけです。特に3原則、すなわち基本的人権と国民主権と平和主義を守ってきたことについて評価をしているんですね。ですから我々が改正条文を出すとすれば、それをさらに発展させる形での提案ということになるわけです。
一方で維新は、この歴史そのものを「孤立と軽蔑の対象に貶(おとし)め」と、まさに正面から否定しているわけですから、そういう憲法を考えておられるんだと思います。
自民党は、「戦後レジームからの脱却」と言っている安倍総裁が総理をやっておられて、憲法についても、私からすれば立憲主義を十分理解したとは解しがたいような提案が出てきているということです。
まず重要なことは、そこの出発点が大きく違う勢力が今度の参議院選挙で戦うので、国民の皆さんがどちらを選ばれるのかということが極めて重要だということです。そのうえで私どもも憲法の議論はしっかりと受けて立とうと思っています。これだけ非常に大きな国民の関心を呼んでいますし、それに対してこたえ得るような提案はしっかりしたいと思います。
その中で96条を二つに分ける考え方があるのは私も理解はしています。ただ、これなかなか悩ましいですよ。例えば3原則といった場合に、民主主義、民主主義の制度というのは、もちろん選挙制度が民主主義の制度ですけれども、三権分立であるとか、例えば国会の仕組みであるとか、内閣の仕組み、わが国は議院内閣制ですからね。これもすべて民主主義の連続線上にある仕組みなんですよね。じゃあどこまでが3分の2で、どこまでが2分の1かということを分けるのはなかなか困難な作業だと思いますよ。
ですから、そこから入るよりは、やっぱりそもそも憲法の中でどの条文を前向きにこれからの時代に合ったものにしていくべきなのかという議論から入るほうが建設的なのではないかと私は思います。
(中略)
○憲法改正について
【テレビ朝日・平元記者】
先日のぶら下がりでも、最優先のものについては条文化をやっていくべきだという考えを示された。きょうの話で表現の自由などについて強い関心をお持ちだとわかったが、そのほか条文化を目指していきたいのはどういったところを今お考えか。
【幹事長】
21条ははたして変える必要があるのかという議論だと思います。たしか自民党の改正案は、21条の2項を加えて、そこに極端な制約をかける形になっていますが、そこはあまり私がああでもない、こうでもないと言わないほうがいいのかもしれないけれど、やはり表現の自由を公権力が規制するというのが前面に出るのは私は問題だと思いますね。権利全体に対して「公共の福祉」で、ある種の限界を設けているのは、確かに現行憲法もそうなんですが、「公共の福祉」の中身としてはこれはまさに私権同士の調整ですね。つまり、ある個人の権利がある個人の違う権利なりもしくはいろんなものを、個人同士の調整の原理として「公共の福祉」が解釈されてきたという経緯がありますので、そこを大幅に踏み越える可能性が少なくともある改正になっていると思います。それを新たに書いたほうがいいのか、もしくはそのままというほうがむしろ好ましいのか、そこは議論があるところだと思いますね。
ほかの条文については、正直言いますと、私個人として幾つか非常に強いこだわりを持っている条文はあるんですが、ちょっと申し上げるのは控えます。そこは、全党的な議論を経て出てくるのが好ましいですから。私もその一員として加わりたいと思っています。
(後略)
[引用おわり]
[gooニュースから引用はじめ]
自民、TBS取材や出演を拒否 党幹部級、報道内容受け(朝日新聞) - goo ニュース
自民党は4日、TBSの報道内容について「公正さを欠く」などとして当面の間、党役員会出席メンバーに対するTBSの取材や出演要請を拒否すると発表した。問題視したのは、6月26日放送の「NEWS23」で通常国会会期末の法案処理を報じた内容。党は「重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解する内容があった。マイナスイメージを巧妙に浮き立たせたとしか受け止められず、看過できない」としている。
TBSは4日夜、報道機関に対し、「自民党から抗議を受けたことは残念。引き続き、理解を得られるよう努力していく」とのコメントを発表した。
[引用おわり]