自民党の安倍晋三総裁(首相)は2013年7月7日(日)放送のNHK党首討論会で、「政治は現実ですから」と述べ、「日本国憲法改正草案」(2012年4月27日決定)を修正する考えをしめしました。
安倍さんのNHKでの発言は次の通り。
「私たちは自由民主党の考え方をお示ししています。そのうえにおいて、(衆参各院総議員の)3分の2の発議(ほつぎ)がなければ、国民投票にかけられません。最終的に決まるのは国民投票ですね。一般の法律は、国会の中だけで決まります。憲法はそこは発議だけで、決めるのは国民。ですから、まず国民的議論を高めていきたい。憲法ができて以来、これだけ議論が高まったのは初めてなんだろう、という意味においては、第一目的は達成したと思います」
「次は発議していく国民的議論を高めていくためには我々もっともっと議論を高めていく必要があると思います。『自民党の案ではダメだ』、『ここを修正すればいいよ』ということになれば、当然、政治は現実ですから、そこは考えていきたい」
と語りました。
たしかに、自民党参院選公約では、「憲法改正【原案】の国会提出をめざす」とあり、公約違反ではないでしょう。しかし、政権半年で、衆院憲法審査会(保利会長)を除けば、具体的な動きはなにもしておらず、自民党支持に関係なく、憲法改正論者に腰砕け感を与えるのではないでしょうか。
この草案をつくった「自民党憲法改正推進本部」には、保利耕輔本部長の下、最高顧問として4人の総理経験者、「安倍晋三」の名前も入っています。ところが、どういうわけか、当時の谷垣総裁らの名前は入っていません。そして、本部事務局長は自衛官出身の元防衛大臣、起草委員会事務局長は旧内務省系(自治省)出身の参院議員、副会長には旧内務省系警察庁出身の衆院議員、さらにタカ派で知られる参院議員も複数入っています。
私は民主党員ですが、改憲論者です。
まず、せっかくの高支持率の安倍さんが憲法9条を正面から議題にしないのは残念です。
そして、「96条先行改正論」には、盟友である古屋国家公安委員長の意見に乗った感があります。
少し話がそれますが、私たち改憲論者には、「89条先行改正論」という議論がありました。
[現行89条]公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のため、または公の支配に属しない慈善、教育もしくは博愛の事業に対し、これを支出し、またはその利用に供してはならない。
これでいくと、「公金(税金)」を「公の支配に属しない教育」に「支出してはならない」。
これについて、芦部信喜著『憲法』によると、2つの立場があるとしています。
(1)私的な事業への不当な公権力の支配が及ぶことを防止する規定。
(2)公財産の濫費を防止し、慈善事業等の営利的傾向、公権力に対する依存性の排除のための規定。
としています。
「私学助成金」を定める「私立学校振興助成法」について、芦部先生は(1)なら違憲、(2)なら合憲としています。とはいえ、(2)としても、いちいち、税金のむだづかいの廃止や、私立学校の公権力への依存性の排除を、憲法で規定する必要があるでしょうか? 非常に意味合いが分からない「現行89条」。
これを自民党の憲法改正草案は、次のように直すことにしています。
[改正89条1項]公金その他の公の財産は、第20条第3項但し書きに規定する場合を除き、宗教的活動を行う組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のため支出し、またはその利用に供してはならない。
[改正89条2項]公金その他の公の財産は、国もしくは地方自治体その他の公共団体の監督が及ばない慈善、教育もしくは博愛の事業に対して支出し、またはその利用に供してはならない。
としています。ですから、私学は、地方自治体すなわち県教育委員会に、定員などの許可を得ている現状ならば、私立学校振興助成法は合憲になります。幼稚園・保育園や、薬学部、歯学部などほとんどが私立である現状では、現実に沿った改憲案です。
しかし、改正21条のように、非常に問題がある規定があります。これは先の通常国会で、民主党の後藤祐一さんと小西裕之さんがていねいに詰めてきたことで浮かび上がった問題点です。
あらためて改正草案を見ると、「ネットウヨ」「タカ派」にアピールして、政権を取り戻そうという、野党・自民党議員の思惑が透けて見えます。民主党は2009年衆院選マニフェストを実行しようとして失敗しました。自民党は支持者を失望させないために、公約や憲法改正草案を実行せず先送りしようという姿勢が見れます。ぜひ、安倍さんは、予防線を張らず、逆に本音であろう9条改正をしっかりと議論すべきです。第2次内閣なのだから、無私の心で、政権の延命を考えることはやめてほしいところです。