オランジェリー美術館改装お披露目の特別展は、素晴らしい企画である。とりわけ、ラ・トゥール「発見」の一大契機となった1934年の『オランジェリー、1934年現実の画家たち』を、70年余りの年月が経過した今日、新たに位置づけようとする発想はきわめて斬新だ。二つの世界大戦を間に挟んで、このフランスが誇る美術館が、同館の歴史に残る最善の展示のひとつを現代に再現する意欲的な試みである。*
『オランジェリー、1934年:現実の画家たち』と題された展示は、1934年にジャモとステルラン Paul Jamot and Charles Sterling によって企画・組織された。この展示によって、それまで必ずしも知られなかった17世紀の画家、ル・ナン兄弟、ラ・トゥールなど、とりわけジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品を世に知らしめたことで世界の美術界に大きな影響を与えた。17世紀フランス絵画の評価を確定したといえる。
1934年の美術展では、およそ70点の17世紀フランス絵画の逸品が公開された。ラ・トゥール、ル・ナン兄弟 the Le Nain brothers, に加えて、ヴァレンタン Valentin, トゥーニエ Tournier, ブールダン Bourdonなどに加えて、あのプッサン Poussin, クロード・ジェレ(通称ロレイン) Claude Gellée などのフランス美術史上の大家の作品が展示された。
今回の特別展は、1934年の展示の単なる再現だけではない。1934年から2006年という70年余りの時の経過がいかなる歴史的評価を下したかというきわめて興味ある視点からの構想に基づいて組み立てられている。時間の経過が、いかなる評価を下したかというきわめて興味ある問への答である。
この設定に応えるために、今回の特別展でCONSONANCES(「共鳴」) という名の下に新たな一室を設け、次の時代へつなげる意味を含めて1934年展の作品とさまざまに響きあうと思われる作品を選択、展示するという意欲的な試みが付け加えられている。ここには10点ほどの作品が展示されている。たとえば、東京展ですっかりおなじみのラ・トゥールの「天使と聖ヨゼフ」との対比で、レネ・マグリッテ René Magritte の作品で蝋燭とトルソを対比した「符合する光」 Luminère des conincidences (1933)を比較したりしている。展示作品数としては決して多いわけでもなく、選択にも異論も多いと思うが、見ていると、さまざまなことを想起させる刺激的な展示になっている。
1934年以来、70年余の時空の隔たりについてオランジェリーがどんな評価を下し、さらに今後に続く時代にいかなる構想を抱いているかを示したいというきわめて根源的で冒険的な設定である。これから70年余後の人々はさらにどんな評価を付け加えるだろうか。非常に興味深い。これらの点にも、折があれば立ち入ってみたいと思う。
展覧会の詳細は、いずれブログでも書いてみたいが、今回はとりあえず、その意義だけを記しておこう。
Orangerie 1934: les ”peintres de la réalité” au musée de l'Orangerie des Tuileries. 22 novembre 2006 - 5 mars 2007.