グローバルな経済不況が続く中で、移民(外国人)労働者は各地で苦難な時を迎えている。そして、彼らを受け入れてきた国も苦悩している。移民労働者問題は、マクロ・ミクロの両面における不断の観察が欠かせない。とりわけ、メキシコ、スペイン、タイなどの経済圏の最前線にある国の動きが興味深い。
EUの最前線スペインの動向は、ひとつのバロメーターとして注目している。スペインは10年近く、移民労働者の受け入れを続けてきた。経済成長が彼らを必要とし、受け入れを支えてきた。移民労働者もそれに応えてきた。しかし、その舞台はいまや急速に暗転している。スペインへ入国している移民労働者は、2009年第2四半期頃から減少に転じている。政府の制限的施策が効果を発揮したというよりは、不況がもたらした結果だ。スペインの失業者はあっという間に400万人を越え、失業率も20%に向かっている。
移民を取り巻く環境は、さらに厳しさを増すことが予想されている。スペインは移民に優しい国かという国のイメージにかかわる論争が展開している。社会党首相のホセ・ロドリゲズ・ザパテロが、2004年に首相の座についてから、スペインには250万人の移民労働者が入国している。全人口に占める移民の比率は、2%水準から12%、560万人の水準まで上昇してきた。移民労働者がスペインの経済成長に貢献してきたことは疑いもない。国民に占める外国人の比率もヨーロッパの主要国と同程度の水準まで、時間的には四分の一くらいの期間で達してしまった。しかし、受け入れが速すぎたこともあって、移民と国民の統合はうまく行ってはいない。さまざまな政治経済、社会的摩擦が発生している。ほとんどの移民受け入れ国が経験し、悩んできた問題がここでは一気に露呈している。
かくて、スペインの移民労働者の見通しは急速に悪化している。移民だけをとりあげた失業率はいまや30%と、国民全体の平均よりかなり上だ。2008年に深刻な雇用削減が始まった頃に着手していれば、移民の失業者は、25万人は少なくてすんだとの見方もある。政策着手が遅れていたのだ。確かに、隣国ポルトガルは2008年にEU域外からの受け入れ枠減らす手を打ち、受け入れ枠を2008年の8600人から翌年は3800人に引き下げていた。中南米、アフリカからの移民を減少させることで労働需給を改善させることを図った。スペインも移民の帰国促進対象国を拡充するなどの手は打った。それでも対策は遅すぎたようだ。
しかし、保守系スペイン人民党はヨーロッパの保守党の中で、フランスやイタリアのようには、移民を政治問題にはしないとしている。スペイン国民の多くは自らが出稼ぎ移民の歴史を知っており、移民を大きな問題とすることはしたくないという思いがある。しかし、不況と仕事をめぐる競争はそれをも変えてしまう可能性がある。
スペインの経験している苦悩は、他の移民関係国が経験しているものでもある。これまでに、多くの経験が蓄積されてきた。しかし、それからレッスンが十分学び切れていない。同じような愚行が繰り返えされてきた。秩序ある出入国管理、迅速な政策対応、情報の共有、そして受け入れ国以上に、送り出し国の経済発展への国際協力が不可欠だ。しかし、それらを結ぶ糸はいつになっても切れたままだ。
Reference
“Bad new days” The Economist February 6th 2010