時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

レンブラントに酷暑を忘れる

2010年09月02日 | 絵のある部屋

Cover: Ernst van de Wettering. REMBRANT: Quest of a Genius. Ed. by Bob van den Boogert. The Waanders Publishers, Zwolle, Rembrandt House Museum, Amsterdam, 2006.  

  日本列島が亜熱帯と化した今夏の一日、酷暑を避ける場所を求めて、少し遠出をする。思いついたのが、かねてから頭の片隅にあった『ポーランドの至宝:レンブラントと珠玉の王室コレクション』なる企画展である。いつもはあまり足を運ぶことはない美術館だが、これまでにも訪れているなじみの場所ではある。

 この美術館、知名度はいまひとつだが、常設展の方にも、どうしてここにこれほどの名品がと思うような作品がさりげなく展示されている。ちなみに、日本に2点しか(2点もというべきか)ないジョルジュ・ド・ラ・トゥールの1点も展示されていることは、このブログでも記したことがある。  

 今回、思い立ったのは新聞紙上の展覧会の広告に、上掲のレンブラントの『額縁の中の少女』が使われていたことがひとつのきっかけだった。このブログでも、何度か記しているが、レンブラントの家系について興味を抱き、少し追いかけたことがあった。そのひとつにレンブラントの娘コルネリアCornelia van Rijnのことがあった。そうしたこともあって、一時期、この『額縁の中の少女』のモデルは、コルネリアかと思いかけたこともあった。しかし、すぐに別人であることが分かる。さらに最近の研究では、この作品の下地には別の女性のデッサンが描かれていることも分かっている。詳しい由来 provenanceは不明だが、謎めいたものを含む作品だ。 作品は大変美しい出来映えだ


 さらに、この作品には、だまし絵 trompe-l'œilの技法がされげなく使われており、その点でも興味深い作品だ。レンブラントは新しい試みを、ことさら目立つようには行っていない。静かに試みて、見る側の反応をみているようなところもある。

  この作品、一時期自分の仕事場にポスターを置いていたこともあり、レンブラントの中でもなじみ深い一点になっていた。 作品は1641年アムステルダムで制作され、レンブラントの署名と年記が入っている。著名なレンブラント研究者であり、あの「レンブラント調査プロジェクト」の責任者をつとめたWetering の業績を記念する論文集の表紙(上掲)にもなっている。



Rembrandt, Girl in a Picture Frame, 1641, oil on panel, 105.5 x 76.3 cm, Royal Castle, Warsaw.  (Ernst van de Wettering の編著のカヴァーとかなり色調が異なりますね。どちらが本物に近いでしょう?)。


 この企画展にはもう1点、レンブラントの作品『机の前の学者』 Scholar at His Writing Desk, 1641, Royal Castle, Warsaw が出展されている。いずれ詳細も記したい。両者とも大変素晴らしい作品で、この2点だけを見ることができただけでも、酷暑の中、ここまで出かけてきた甲斐があったとおもうほどだ。これ以外にかなり興味深い美術作品やコペルニクス、ショパン、キュリーなどポーランドが誇る有名人にかかわる展示もあり、きわめて異色の展覧会となっている。夕刻、美術館を出ると、そこは厳しい炎天の世界だった。




『ポーランドの至宝:レンブラントと珠玉の王室コレクション』東京富士美術館、2010年8月29日ー9月26日

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