時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

1960年代の響き:Simon & Garfunkel - Scarborough Fair

2014年01月18日 | 午後のティールーム


Simon & Garfunkel
Simon & Garfunkel: Collected Works, CD, 1990
CD cover


 かなり長い間手元の音楽用のHDに入っていて、なにかの折に繰り返し耳に入ってくる曲がある。時々は入れ替えているのだが、いつも「お気に入り」リストから外しがたく、今日まで残っている。全体にクラシック曲が多いのだが、かなりのポピュラー曲も入っている。しかし、後者は1960-70年代のものが圧倒的に多い。以前に記したことのあるジョン・バエズの若き時代の弾き語りも残っている。

突然の再会
 そのひとつが、サイモン&ガーファンクルのシリーズだ。旧聞になるが、年末ラジオの周波数を調整していた折に、まったく偶然にNHKカルチャーラジオなる番組で久しぶりに出会った。それまでは、こうした番組を自ら進んで聴いたことはなかったから、大変懐かしく感じた。サイモン&ガーファンクルの曲はどれも大変好みなのだが、その中でも「スカボロー・フェア/詠唱」 "Scarborough Fair / Canticle" には今日まで特別の印象が残っていた。最初に聞いたのは、もう半世紀近くを遡る1960年代、アメリカ時代だった。まだ脳細胞が柔らかく、新しいこともほとんど抵抗なく次々と頭に入ってきた良き時代(笑)だった。慣れない英語の日々、連日アサインメントの消化に疲れた頭脳には、炭酸水のような爽やかさを残してくれた。

 最初に耳にしたのは、恐らくサンフランシスコだったと思う。この時代、日本からアメリカ東部への直行便がなく、ホノルル経由でサンフランシスコへ着いた時代であった。東部へ行く前にしばらくこの地で過ごした。後で思うと、空港へ迎えに来てくれた友人の車内にも流れていた。初めてのアメリカ、燦々と輝く太陽と美しい海、爽やかな空気は、長旅に疲れた身体も心も直ぐに癒してくれた。サイモン&ガーファンクルは、西海岸の文化、風土に実に合っていた。


 当時はまだCDが普及していなかったこともあって、CDカセットを使っていたと思うが、友人の車のオーディオには、サイモン&ガーファンクルの曲も入っていて、大学や野球場などへ案内してもらった時などに、いつの間にか脳細胞に入り込んでいたようだ。この時代、ニューヨークでもグリニッチヴィレッジを中心にして、フォークブームが流行していた。ボブ・ディランが大活躍をしていたことも思い出す。

ヴェトナム戦争の時代
 サンフランシスコやニューヨークには、僧侶のように丸刈りにした、黄色の衣をまとったヒッピーが目に付いた。今、ヒッピーといっても、若い世代では、イメージがすぐには浮かばないようだ。1960年代後半、ベトナム戦争への反戦ムードも次第にキャンパスに浸透していた。彼らはその象徴のような存在だった。こうした時を経過して、いつとはなしに、身体の一部のようになったサイモンであり、ガーファンクルだが、その歌詞の意味などを立ち入って調べてみたことはなかった。

 スカーボロー・フェアにしても、カリフォルニアのどこかで開催されるフェアのひとつ程度としか理解していなかった。近くにいる友人にでも尋ねればよかったのだろうが、そこまで入り込んでいる余裕がなかったのだろう。


 後にイギリスにしばらく住むことになり、ふとしたことでスカーボロが、より正しくはスカーバラ Scarborough であることに気づき、あれっと思ったことがあった。そこで分かったことは、スカーバラはイングランド北東部ヨークシャーの漁港であり行楽地であることを知り、にわかに別の興味が生まれた。すでに13世紀半ばから18世紀まで大規模な市が開かれており、有名な町であった。サイモンはこの地のことを歌った古くから伝わるバラッドをアレンジし、チェンバロの伴奏をつけて、クラシックギター風な演奏で歌ったのだった。

不思議な歌詞
深く考えることなく、聞いたり、口ずさんでいた歌詞にも、そういえば不思議な部分があった。とりわけ、歌詞全8節の内、詠唱 canticle の3節を除き、5回にわたって前後の脈絡も定かでなく、何度も繰り返される次の下線部分だ。

Are you going to Scarborough Fair;
Parsley, sage, rosemary and thyme.
Remember me to one who lives there.
She once was a true love of mine.

 この部分、「パセリ、セージ、ローズマリー アンド タイム」、大変美しく爽やかに響く。歌の途中に差し入れた、合いの手のような感じもする。最初に聞いてからしばらくの間、スカーバラの市で、売っている香草のことかと思っていた。イギリス人は、これらの香草を好む人が多く、料理の香り付けやポプリなどによく使われている。イギリス時代、ガーデニング好きな隣人に教えられて、こうした香草、季節の花の栽培には大分詳しくなった。

 この歌をラジオで聞いたことがきっかけで、歌詞のことが気になり、放送を担当された講師のテキストも読んでみたが、その出所は諸説あって、本当のところは分からないらしい。バラッドでは他の表現も使われているようだ。イギリスで長く歌い伝えられている間に変わったのかもしれない。

 サイモン&ガーファンクルの歌は、どれもそれぞれ味わい深く、陰影があって今でも聞いていて心地よい。そういえば、映画『卒業』 The Graduate にも使われていた。ダスティン・ホフマンも若く、キャンパスにいた学生たちの象徴のように魅力的だった。当時はヴェトナム戦争たけなわの頃、反戦運動もさまざまに沸き上がっていた。それでも生き甲斐を感じ、ひたむきに日々を過ごしていた思いがする。少し後になって振り返ると、アメリカも繁栄していた時代だった。       



 飯野友幸『サイモン&ガーファンクルの歌を詠む』NHKカルチャーラジオ 2013年10-12月(この『スカーボロ・フェア』については、11月1日放送)。





Simon & Garfunkel - Scarborough Fair


Source: You Tube 

 

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