時によりすぐれば民の嘆きなり八大龍王雨やめたまへ
源実朝『金槐和歌集』(1213年)
新型コロナウイルス感染が拡大する中、凄まじい豪雨が日本列島を襲っている。「線状降水帯」の発生など新しい事態を含め、日本列島は明らかに「災害列島」の様相を強めている。こうした大雨をもたらす根源は何なのか。
8月13日、日本全国の新型コロナウイルス新規感染者数は、2万366人と初めて2万人を越えた。東京都については、5773人と過去最多を更新した。重症者数も全国で1478人とこれも過去最多となった。
新聞、TVなどのメディアには、「制御不能」*1との表現が目立つようになった。言い換えると「お手上げ」なのだ。専門家は「自分で身を守る段階」に突入したと述べ、病院などの受け入れ対応も「医療は機能不全」の状況にあると指摘、警告している。
こうした事態になったことについては、多くの問題点が指摘されている。期待された免疫ワクチンの調達と配分も円滑には進まず、デルタ株など新たな変異株の出現もあって、政府のいう「集団免疫」の獲得効果も期待するほどには出ていないようだ。
これまで対策の焦点となったのは、ワクチン接種者の拡大と人の流れの制御であった。
とりわけ筆者が気になっていたのは、感染者数最大の東京都の対応だった。新型コロナウイルスが未だ出現していなかった頃、人口の東京一極集中が問題となり、その分散化が大きな課題となっていた。しかし、小池都政の下では、その意識は顕著に希薄化していたように思われた。
東京都は島嶼部を別にすると、地域は東西に長く東は江戸川区から西は奥多摩町に至る横長の形をとっている。人口についてみると、ひとつの特徴は昼間の人口と夜間の人口の差異が極めて大きいことにあ る。2015年の「国勢調査」*2の数字になってしまうが、昼間人口は1,592万人、常住人口は1,352万人、昼夜間人口比率は117.8%と昼夜の差が極めて大きい。東京都への流入人口は291万人、神奈川・埼玉・千葉の3県で93.6%を占める。大阪市の人口を上回る数が毎日多様な経路で流出入している。
東京都の昼間人口
出所:「東京都の昼間人口」(従業地・通学地による人口)の概要:報道発表資料
2018年3月20日
東京都内においても、千代田区、中央区、港区、新宿区などは圧倒的に昼間人口が多く、江戸川区、葛飾区、足立区、練馬区、板橋区、杉並区、世田谷区などは常住人口が昼間人口を上回っている。
東京都の昼間就業者は801万人、昼間通学者は168万人と極めて多い。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してから、人流の抑制と過密状態の排除が課題となっている。国内における人の流れ domestic migration のフローとストックに関わる問題なのだ。
東京圏は東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県の1都6県から成る広域移動地域とも言うべき状況にあるのだが、都と県という行政区分へのこだわりが強く、最低賃金などでも都県別に微妙な差がつけられてきた。筆者はそれがどれだけの意味があるのか、以前から疑問を呈してきた。
東京都内においても、千代田区、中央区、港区、新宿区などは圧倒的に昼間人口が多く、江戸川区、葛飾区、足立区、練馬区、板橋区、杉並区、世田谷区などは常住人口が昼間人口を上回っている。
東京都の昼間就業者は801万人、昼間通学者は168万人と極めて多い。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してから、人流の抑制と過密状態の排除が課題となっている。国内における人の流れ domestic migration のフローとストックに関わる問題なのだ。
東京圏は東京都、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県の1都6県から成る広域移動地域とも言うべき状況にあるのだが、都と県という行政区分へのこだわりが強く、最低賃金などでも都県別に微妙な差がつけられてきた。筆者はそれがどれだけの意味があるのか、以前から疑問を呈してきた。
例えば、千代田区、中央区と江戸川区、葛飾区の間で、最低賃金率に差をつけるという議論が成立するだろうか。東京都の賃率が近接県よりも高ければ、それだけ東京都への流入促進要因として働く。同一賃金率の設定は、都、県、区などの行政区分を越えて、現実の労働市場の範囲、労働者の居住地、通勤・移動距離などに則して、より現実に近接して行われるべきであり、労働経済学における測定 measurement に関わる通念や神話 myth からの脱却に関わる重要テーマでもある。
東京都への流入人口
出所:同上
今回の感染状況を改めて考えると、東京都と近接県については、実態に即した広域圏としての視点から、より統一され整合性のある政策運営が必要に思われる。
災害の収束を神頼みにしてはいけない。人智の限りを尽くすべきだろう。
*1「東京 感染「制御不能」『朝日新聞』2021年8月13日朝刊
*2 平成27(2015)年10月1日現在の国勢調査の結果から、総務省統計局公表結果に基づき、東京都が公表した統計に依拠。
災害の収束を神頼みにしてはいけない。人智の限りを尽くすべきだろう。
*1「東京 感染「制御不能」『朝日新聞』2021年8月13日朝刊
*2 平成27(2015)年10月1日現在の国勢調査の結果から、総務省統計局公表結果に基づき、東京都が公表した統計に依拠。
Reference:
David Card and Alan B. Krueger, MYTH AND MEASUREMENT: The New Economics of the Minimum Wage, Princeton: Princeton University Press, 2016.