すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

声を聴かなくなった人々へ

2014年09月01日 | 読書
 「2014読了」90冊目 ★★★

 『想像ラジオ』(いとうせいこう 河出書房新社)


 昨年話題になった小説だ。
 芥川賞の候補作となったことも聞いたが,文学的にどうなのか正直よくわからない。
 ただ,混沌と見える話題の中にも作者の思いはよく伝わってくる話だ。

 第4章は一組の男女の会話で構成されている。
 このやりとりは,例えば風に波打つ湖面のように変化があって面白い。

 いつからかこの国は死者を抱きしめていることが出来なくなった。


 どきりとする。

 それは「声を聴かなくなった」からだという。
 『想像ラジオ』という題名は,そこに直結する。


 感受性だけ強くて,想像力が足りない

 二人の会話の中で「最悪」と評価された,そんな生き方をしている人が増えてきたようだ。

 感受性の行き場所はいつも自分であり,それゆえに苦しみ悩み,他者を思いやる余裕に欠ける。

 死者を悼む気持ちがどんどん痩せていることに,時々苦いものがこみ上げてくる。
 そしてそれをいつも社会や周囲のせいにして,自分から目を背けているのだ。


 「DJアーク」が選曲しアーティストの半分以上は,自分も若い頃に聴いた音楽だった。
 そこからずいぶん離れてしまったが,もう一度耳を澄ませて聴き入る夜があってもいい。
 そういう時間を持った方がいい。