すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

一流はそこが上手いんだよ

2015年02月02日 | 読書
 【2015読了】16冊目 ★★★
 『地下街の雨』(宮部みゆき 集英社文庫)

 行きつけの小さな書店の文庫コーナーはかなり限定されたスペースである。少し前まで三人の作家だけがミニコーナー的に取り揃えられていた。それは、佐伯泰英、東野圭吾そして宮部みゆき。ベストセラー作家は数々いるだろうが三人は別格ということか。時代小説が不得手なので佐伯は知らないが、東野、宮部は失敗作がないということなのかもしれない。


 短編集、7つの作品があってそれぞれに面白い。パターンもいろいろあるし、飽きさせずに物語世界へ誘い込む感じがする。ただ少し穿った見方をすれば、作りこんでいるのではないかという気がしないでもない。伏線という言い方をすれば恰好いいのだけれど、人気の作家作品を読んでいると、正体暴きみたいな心持ちになってしまうのは、性格の悪さなのか。


 20年前のこれらの作品を読み、今なら同じ筋は作れないものもあるなあ、と感じた。それは「電話」の存在である。「混線」という小説は電話そのものが重要な役割を果たすので、携帯、スマホの現在ではちょっと難しい。表題作の「地下街の雨」もクライマックス近くのシーンで公衆電話をかける箇所はかなり重要だ。電話が小道具を越えて大きな意味を持つ。


 最後の「さよなら、キリハラさん」という作品には、家族全員の耳が聞こえなくなる場面があり、大変な騒動となるが、今ならメールでやりとりできるし、筆談がわりのことも携帯、スマホで簡単にクリアしてしまう。現代に置き換えるのはなかなか難しいだろう。設定や小道具などは社会状況に左右されることを、今さらながらに感じさせてくれた読書である。


 それは逆に、では変わらないのは何かという問いでもある。これはもうはっきりしている。人間の感情、感情の起伏…この短編集では、怖さやせつなさが強調されているが、振り返って共通点を拾ってみると「固定観念をこわす」というイメージがわいてきた。人が毎日のように繰り返し、陥っていることが崩される印象につながる。一流はそこが上手いんだよ。