和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

女狐詩人。

2011-04-19 | 詩歌
3.11東日本大震災の記事で満たされた新聞が続いていた4月のはじめに、岸田衿子の死亡記事がありました。昭和4年生まれの詩人の詩を、最後に見かけたのは2005年2月号「文芸春秋」。
そこに、わたしが見かけた最新の詩がありました。



  固い実    岸田衿子


 海辺の崖っぷちで育った木の実も

 火山灰地に生えた木の実も

 なぜ みんなまるいのだろう

 どうして みんな光るのだろう

 一粒ずつ誰かが磨いたかのように

 この 荒れ果てた異国の街の

 人々が立ち去ったあとの道ばたの木も

 今年のまるい固い実を結ぼうとしている


「荒れ果てた・・街」が、忽然と東日本にあらわれ
その情報を固唾を呑んで見守るなかでの、岸田衿子さんの死亡記事。
そのうち、思い浮かんできたのは、田村隆一の詩でした。

   命令形   田村隆一

  ゆき
  ゆき
  もっと ふりなさい

 狐のような女の詩人が歌いながら
 ぼくの夜の森から出て行ったが
 この歌の命令形が好きだ

  追ってゆきなさい、詩人よ、まっすぐ追って
  夜の奥底までもゆきなさい、
  束縛をとき放つあなたの声で
  喜び祝えと、われわれにすすめてください。

 ライオンのような詩人が
 心の病いをいやす泉をもとめて
 死せるアイルランドの詩人に祈った命令形が好きだ

 人は人に命令できない
 命令形が生きるのは
 雪
 そして詩の構造の光りと闇の
 谷間にひびく
 人間の言葉



「狐のような女の詩人」というのが岸田衿子。
この詩に引用されている最初の3行は、
岸田衿子の童謡からの引用とあります。
「ライオンのような詩人」はW・H・オーデン。
引用されている詩は「W・B・イェイツをしのんで」から。



「谷間にひびく 人間の言葉」かあ。
ところで、
テェリノブイリ原発は「石棺」。
福島第一原発事故の際の首相は「菅直人」。
4月18日読売新聞には、原発安定への
東電の工程表が掲載されていて、
4面には「3か月で『水棺実現』」とありました。
田村隆一の詩に、そういえば、「立棺」があったなあ。
「立棺」には、こんな箇所があったりします。


   わたしの屍体を地に寝かすな
   おまえたちの死は
   地に休むことができない
   わたしの屍体は
   立棺のなかにおさめて
   直立させよ

      地上にはわれわれの墓がない
      地上にはわれわれの屍体をいれる墓がない




こんなふうな、引用をしていると、つぎに
田村隆一著「詩人のノート」をひらきたくなります。
さて、どこにあったかなあ。

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