おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書64「逍遙の季節」(乙川優三郎)新潮社

2009-12-10 15:15:32 | つぶやき
 名は体を表すとか、作者の名前と作品集の題名と、まさにそんな言葉がぴったりするような・・・。むしろ生きる(書く)姿勢から名前が、内容から題名が寄り添うように付けられているとも。
 この作品集。江戸の情緒に場を設定した、現代の男女の物語といった風情にあふれています。それも、一貫して自立した女性のまなざしで描かれている。
 この時代に一介の女性が仕事をしながら生活を行っている、ということが現実的に可能だったのかどうか。
 市井の男女が、質素でたくましい生き様を送っている、などとは絵空事ではあるまいか、などとの野暮な疑問は、この際必要がない。作者の描こうとする、現代人の人間模様(失われた世界)は、時空を超えた場所と時と人間関係の中にあるのだろう。まさに理想的な人間模様でもあるが。
 江戸の町の片隅の風景は、土地の名や草木の名を克明に記す中で、しっかりした足元のある「物語」に結実していく。
 独特の雰囲気のある、小作品集であった。寡聞にしてこれまで接したことのない、「現代風時代小説」だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする