おやじのつぶやき

おやじの日々の暮らしぶりや世の中の見聞きしたことへの思い

読書72「円生と志ん生」(井上ひさし)集英社

2009-12-28 06:34:57 | 読書無限
 井上ひさしさんの戦争へのこだわり、いや平和へのこだわりは、戯曲の中で一貫したテーマになっている。この芝居も旧満州国の大連が舞台。戦争末期から日本へ引き揚げてくる、昭和20年の夏から22年の春までの六百日間。
 日本人が、異国の地でありながら、我が世の春を誇っていた地で、ソ連の参戦と南下による混乱と明日をも知れぬ生活。その中で、日本への帰国を夢見て必死に生きる二人の落語家の姿を通して、戦争に翻弄され、右往左往する庶民の赤裸々な姿を描いている。
 小学校時代の同級生で、満州から引き揚げてきた友達がいた。その両親は小学校の先生をしていた。引き揚げ船に乗るまでの大変な苦労と船中生活のようす、まだ生まれたばかりで年端もいかない子どもを二人連れての日本への帰国。その両親から話されたことがあった。まだ小学生の時分、当時は、そんなことを他人事のように聞いていたことを想い出す。
 そうした方々(残留孤児となってしまった方や幼い子どもと死に別れた親たち)の苦しみ、悲しみ。そうした人生のドラマを二人の落語家の姿を通して、心の内面の真実の叫び。
 お芝居は、井上さんお得意のオペレッタ形式に仕立てている。当時、ホントウに苦労した人からしてみれば、軽い感じがするかもしれない。しかし、笑いと涙と織り交ぜながら、今の我々が忘れてしまった(しまおうとしているかもしれない)戦争の悲惨さ(平和への産みの苦しみ)を描いている。
 広島の原爆を扱った「父と暮らせば」など、井上さんのこだわりは継承されなければならないものだ。そういう井上氏の作劇スタイルを好まない人も、大勢いるようだが。
 おなじみ和田誠さんの装幀もしみじみとした味わいがある。こまつ座の芝居には最近行っていないが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする