[写真]須藤正彦・最高裁判所判事、裁判所ホームーページから。
まさに現代の大岡裁きと言えるでしょう。
最高裁判所・大法廷(裁判長=竹崎博允・最高裁判所長官)は2011年3月23日の判決(最大判)で、「1人別枠方式を採用した本件区割規程は憲法に違反し、本件選挙(小選挙区)は違法である」として、第45回衆院選は違法だとしました。そのうえで、原告(職業は弁護士)らが求めた「東京18区など合計8つの選挙区の選挙は無効だ」との請求は「事情判決の法理によって請求を棄却する」としました。
現在開会中の第179臨時国会では、国対委員長も務めた公明党の東順治さんらが、9党による「衆議院選挙制度に関する各党協議会」(座長・樽床伸二民主党幹事長代行)をつくり、協議しています。このなかで、民主党と自民党は今国会に定数是正を先行させて「衆議院選挙区区割り画定審議会設置法」を改正し、定数削減と選挙制度改革はその付則に盛り込むことで合意した、と報じられています。一方で、7党の少数政党は「抜本改革が必要だ」として抵抗しています。
改めて、3月23日の最高裁大法廷判決を読み直すと、弁護士出身の須藤正彦・判事が書いた補足意見の中で、「小選挙区制では、一定の実績と継続的活動能力がある政党の所属者が当選しやすくなり、2大政党の形成が容易になり、政権交代の可能性が高くなる」「政権交代はこれら多数派政党(2大政党)間で行われ、国政の連続性・安定性が確保できる」として、2大政党のメリットを認めました。
最高裁が2大政党のメリットを判決文で認めたのは、この平成23年3月23日最大判の須藤意見が初めてだと思われます。今後、岩波書店の芦辺『憲法』などの最新版にも盛り込まれることになるでしょう。
公明党など少数7政党はこの判決の重みをよく考えるべきです。もちろん15裁判官中1裁判官の意見ですが、この裁判は1票の格差の是正と第45回衆院選の無効を求めた裁判であり、2大政党デモクラシーの是非を問うた裁判ではありません。従前より、弁護士出身の最高裁判事は、職業裁判官、学者、官僚出身の判事よりも軽妙洒脱な判決文を書く傾向があり、須藤意見もそれに沿ったものではないでしょうか。ちなみに最高裁ホームページによると、須藤判事は中央大学法学部卒。2年後に司法修習生になり、「東京弁護士会」に所属し、副会長に。1991年に法学博士をとり、2008年には地労委(東京都労働委員会)の委員も務めました。政権交代直後の2009年12月28日に最高裁判事となりました。ホームページでは、裁判官としての心構えとして「40年間の弁護士生活で培った在野精神,市民感覚をもとに,適正な洞察と判断,手堅くかつ迅速な処理に努めたい。社会がますます高度化,複雑化,国際化の度を強めている今日の状況下にあって,大局的かつ複眼的な見地を失わないようにしたいとも思っております」としており、今回の大岡裁きに通じるものを感じさせます。スキな言葉はサン=テグジュペリで内藤濯(ないとう・あろう)翻訳の『星の王子さま』(岩波少年文庫)の「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」。このほか、相田みつをさんの「つまづいたって いいじゃないか人間だもの」をあげています。
政党間協議のほかに、今国会から衆院予算委員にもなった東順治・公明党元国対委員長(比例単独九州ブロック)は11月10日の平成23年3次補正しめくくり質疑のなかで、「40%台の得票率で70%台の議席をとるのはどう考えても理屈に合わない」とし、「物の本によると~~」を連発しながら、欧州などで小選挙区制から比例代表制に移行していると主張しました。しかし、わが国のデモクラシーは欧州の各国議会のような成熟した段階にはありません。欧州では国境が近いですから、他国を相対化しやすく、「ギリシャやイタリアのようにならないようにしないとな」という意識が庶民の間でもわきます。野田佳彦首相は「私は小選挙区の光と影を両方体験しました。光とは、前回の(第45回衆院選の)ダイナミックな政権交代です。影とは、最初の(第41回衆院選)での惜敗率99%の落選で、死に票をたくさんつくってしまったことだ」と答弁しました。そのうえで、野田首相は「今の政治の閉塞感は選挙制度だけでなく、衆参がねじれた場合の両院協議会など国会の中の改革もある」と主張しました。私は野田さんの答弁に全面的に同意します。
[画像]竹崎博允・最高裁長官、議会開設120年記念式典、参院本会議場、2010年11月29日、参議院インターネット審議中継から。
ガバナンスとは、政府だけでなく、衆議院、参議院、最高裁、そして自治体が分担するものです。最高裁大法廷判決を少数政党7党はよく読み直すべきです。また、この須藤意見は、2大政党デモクラシーのメリットをスッキリと解きほぐしてくれていますから、学校・大学の教材や、入学試験などにも広く活用されてしかるべきでしょう。スッキリ読めます。
最高裁大法廷の2011年3月23日の判決の須藤正彦判事(弁護士出身)の補足意見をよく読み直すべきです。そして、7つの少数政党は、せっかく比例代表制が並立しているのですから、比例で足場を固めた上で、小選挙区でも、民主党ないし自民党のどちらか一翼を襲って、2大政党になればいいじゃないですか。イギリスの労働党は20世紀前半に二大政党になり、連立を組みながら力を携え、世紀をまたぐときには、3期連続で単独で政権を担いました。昨年5月からは下野していますが、影の内閣が与党時代の自己批判も含めて、積極的にメッセージを発しています。
[上記判決文の20ページから24ページから引用はじめ]
裁判官須藤正彦の補足意見は,次のとおりである。
私は,遅くとも本件選挙時においては1人別枠方式が憲法の投票価値の平等の要求に反する状態になっていたとの多数意見に賛成するものであり,また,候補者届出政党の選挙運動に関する公職選挙法の規定が合憲であるとの多数意見に賛成するものであるが,なお,人口の少ない県に対する配慮と衆議院における投票価値の平等との関係で,次の1の点を補足するとともに,候補者届出政党の選挙運動に関する公職選挙法の規定を合憲と考える理由につき,小選挙区制選挙制度の観点から,次の2の点を補足しておきたい。
(略)
選挙制度の仕組みをどのようなものにするかは国民の選択,具体的には国会の広範な立法裁量に委ねられるところ,現行の衆議院議員選挙制度は,小選挙区制の選挙制度を中心とし,これによって政策本位,政党本位の選挙制度としているといえる。しかるところ,この小選挙区制の選挙制度の下では,一つの選挙区から1人の議員しか当選しない仕組みが採られている。その結果,一定の実績と継続的活動能力を有すると認められる政党の所属者が当選しやすくなり,そうすると,国会での多数派ないし2大政党の形成が容易になり,政権交代の可能性が高くなる一方において,政権交代はこれら多数派政党間で行われ,国政の連続性,安定性の確保が図られ得るといえる。そして,小選挙区制の選挙制度の趣旨・目的についての以上の捉え方よりすれば,それは,国会において一定の実績と継続的活動能力を有すると認められる政党による論争・審議が中心となることが前提とされているといい得るし,また,そのような考え方を重視すると,その一環ないし延長として,飽くまで合理性を是認し得ないほどに候補者間の平等を害しない範囲においてではあるが,一定の実績と継続的な活動能力の存在を示す一定の要件を備えた政党について,その政策や所属候補者についての情報など投票のための判断資料が選挙民に十分に伝わるように,候補者個人とは別に選挙運動を認めるという考え方も生じ得よう。もとより,民主主義社会にとって,多様性は生命線ともいうべきもので,小政党や無所属の者の表現の自由が侵されたり,少数意見が封じられることがあってはならないのは当然であるが,上記の考え方は,議会制民主主義の機能発揮という憲法上の理念に合致する面を有しており,賛否はいずれにしても,一定の合理性が認められる一つの考え方として成り立ち得ると思われるのである。
[引用おわり]
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