ニュースサイト宮崎信行の国会傍聴記

元日本経済新聞記者の政治ジャーナリスト宮崎信行が衆参両院と提出予定法案を網羅して書いています。業界内で圧倒的ナンバー1。

熟議のねじれ国会が初成果! 政治が国民の手に 相続税増税法案が廃案確実に

2011年11月19日 11時07分55秒 | 第179臨時国会(2011年10月)議員立法

 前のエントリー野党時代のガソリン値下げ隊を謝罪 与党になったアニキ・安住淳さんの下の方に書きましたが、やはり意義深いと思うので、エントリーを独立させました。

 2010年7月11日、私たち日本国民は「衆参ねじれ」という直近の民意を示しました。その熟議の国会で、最大の成果、国民の勝利ではないでしょうか。

 政府・財務省は、相続税の基礎控除額を「5000万円+法定相続人×1000万円」から「3000万円+法定相続人×600万円」に引き下げ、課税対象を推定で人口(お亡くなりになった方の人数)と比べて4%から6%へ課税対象者を広げたうえで、税率を50%から55%に引きあげる平成23年度税制改正をめざしていましたが、18日、衆議院において廃案になることが確実になりました。また来年度税制改正要望にも入らない見込みとなり、平成25年度以降への先送りが確実となりました。

 内閣は2011年1月25日に衆議院に「所得税法等の一部を改正する法律案」(177閣法2号)を提出し、議院運営委員会は2月15日に財務金融委員会に付託しました。しかし、衆参ねじれを楯に抵抗野党となった自民党の後藤田正純・筆頭理事が審議になかなか応じず、予算が参院に送付済みの3月から審議を再開したところ、東日本大震災が発生し、審議がストップ。

 ここで、新年度入りを目前にして、民主党の藤井裕久、自民党の野田毅、公明党の斉藤鉄夫の各税調会長が民公自3党の修正協議に乗りだし、野田さんが新年度の暫定つなぎ法となる「国民生活などの混乱を回避するための租税特別措置法などの改正案」(177衆法4号)を提出し、3月31日に成立しました。

 これは3ヶ月間のつなぎ法ですので、内閣は6月10日、新法として「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法などの改正案」(177閣法82号)を衆議院に提出しました。この法案は第177通常国会の会期末(結果として延長)だった6月22日に成立しました。その後も内閣は国会の承諾を得て、「177閣法2号」の名前を修正し「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法などの改正案」として成立を図ってきました。しかし、3党協議の結果、2011年11月18日の衆院財金委員会で与党側筆頭理事が修正案を提出し、「改正法案から、所得税法・相続税法・租税特別措置法に関する条文を削除し、法人税・国税通則法の改正に関する条文のみとする」と語りました。

 これにより、相続税増税部分が今国会中の会期内で成立することは絶望的になり、廃案が確実です。

 元々、議会(Parliament)は、はじめは高級裁判所、次に国王が財政難で陪臣に請求せざるを得なくなった租税に対して承認あるいは拒否する権限を持つようになり、13世紀のヘンリー3世の時代から、貴族と庶民代表の合同集会として成立したのが始まりです。だから、代表無くして課税無し、税とはすなわち政治なりという言葉が出るようになりました。それから、600年後に日本でも議会(帝国議会、国会、Diet)が成立しますが、このときも官選首長による、地租あらため固定資産税に対して各地で断続的におきた地租改正一揆が、板垣退助率いる「自由党」などによる自由民権運動を大きく押し進めました。

 今回の相続増税法案は、相続税の納税者が、国民100人辺り4人とされてきたのが、6人へと大幅拡大するものでした。しかし、「衆参ねじれ」という私たちの直近の民意がそれを食い止めたことになります。考えようによっては、資産のデフレ基調が続き、言及するのは心苦しいですが大震災もありましたので、実質的には減税基調というとらえ方もできます。民主党税調は平成24年度の税制改正で、政策調査会の厚労部門会議が重点要望している「医業継続にかかる相続税・贈与税の納税猶予の創設」は検討していますが、国会の意思にもとづく相続増税すえおきに関しては尊重する構えで、相続増税は平成25年度(2013年度)以降に先送りされる見通しです。

 今回の相続増税廃案は、衆参ねじれにより発言力を回復した自民党の考えが、政権政党に反映されたものだと思われます。

 官僚や各種団体がイチバンの政治から、一人一人の有権者がイチバンの政治へ。政権交代のその先にある、政治を国民の手に取り戻す動きは、まだ始まったばかりです。

 ◇

 すでに今週、毎日新聞が次のような記事にしていました。

相続税:政府税調、増税見送り検討 - 毎日jp(毎日新聞)

 政府税調は15日、未成立の11年度税制改正法案に盛り込まれていた相続税増税などについて、12年度でも改正を見送る検討に入った。野党の反発が強いため。消費税の増税論議を優先し、増税項目を絞り込む必要があると判断した。一方、公明党が賛成する地球温暖化対策税(温対税)創設は、12年度改正での実現を目指す。

 11年度改正では、法人税の実効税率引き下げや相続税増税などを盛り込んだが、自民などが反対。このうち、東日本大震災の復興財源に関わる法人減税は野党が了承したため、相続税増税など残りの項目はひとまず税制改正法案から削除することを決めていた。

 それでも、相続増税などの成立は12年度でも困難との見方を強め、税と社会保障の一体改革に伴う税制抜本改革で改めて議論する戦略に転じた。

 また、民主党税調は、12年度税制改正で総務省が要望した固定資産税と都市計画税を軽減している特例措置の見直しについて、見送る方向で検討に入った。13年度以降の税制改正で改めて検討する。

 総務省や全国の市町村会などは、地価下落などで税収が落ち込むとして、特例措置の縮小による税収確保を主張するが、景気への配慮から存続を求める声も根強く、意見集約は難しいとの見方が強まった。【小倉祥徳】
毎日新聞 2011年11月16日 東京朝刊

 ◇

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出先機関がない会計検査院が平成22年度検査報告 原発立地周辺地域整備資金は10年前からチェック

2011年11月19日 10時22分39秒 | 第179臨時国会(2011年10月)議員立法

[写真]決算委員であることに誇りを持ち、エネルギー特会(電源特会)の原発立地の「周辺地域整備資金」を取り上げてきた又市征治・参院議員。

 日本国憲法第90条に定める「会計検査院」は2011年11月8日、平成22年度の決算検査報告書を、野田佳彦・内閣総理大臣に提出しました。

 この中で、新聞報道によると、「数年前から調べていた」というエネルギー対策特別会計の電源開発促進勘定の原発立地自治体に対する「周辺地域整備資金」について、657億円がムダ(縮減可能)だ、と指摘しました。そもそも、このお金は経産省が「原発の新規着工の時期が仮に重なると、地元自治体への交付金が不足することを防ぐために積み立てたお金」ということで、要するに経産官僚が天下りするための預金のようなものだったようです。

 決算検査報告書をひもとくと、検査院は平成13年度(2001年度)に検査し、平成16年度(2004年度)にもそのフォローアップをしていたようです。検査院は霞が関で疎んじられる傾向があり、マスコミも朝日新聞を除くと、あまり検査院を重視していない傾向があります。2001年度というと、1997年末の小沢一郎氏による新進党解党の次の総選挙があった時期なので、小沢氏が新進党を解党していなければ、政権交代して、福島原発が爆発することもなかったかもしれないなあと感じました。

 なお、このムダとされた657億円ですが、その次年度(すなわち今年度)の第1次補正予算で、菅直人内閣(野田佳彦財務相)が500億円の減額補正をしています。これは一般会計から繰り出し、エネ特会に繰り入れる予定のお金を500億円減額したモノです。ですから、平成23年度一般会計は500億円分、自由なお金を得たという格好になりますが、あまりにも遅すぎました。

 国会法105条は「各議院または各議院の委員会は、審査または調査のため必要があるときは、会計検査院に対し、特定の事項について会計検査を行い、その結果を報告するよう求めることができる」としています。一方の会計検査院も、「会計検査院は要請に係る検査を着実に実施しその結果を国会に報告しているところである」としています。会計検査院法は「会計検査の機能の強化と活用を図り、もって国会における決算審査の充実に資するために、国会および内閣への随時の報告」が可能だと定めています。

 参議院の決算委員会では、冒頭の写真にあげた又市征治さんが「私は初当選以来、ずっと決算委員会に所属している」と胸を張ることがよくあります。その姿には、あたかも「衆議院なにするものぞ」「参議院でも予算委員は利権屋や目立ち屋だ」と言いたげな、決算委員としての矜持を感じます。

 実際、「周辺地域整備資金」にして、国会議事録データベースで又市さんが参院議員になった第152臨時国会から今国会までで調べると、 第165秋の臨時国会の初日(平成18年11月15日)、第166通常国会の9号(平成19年5月21日)、第177通常国会の9号(平成23年5月30日)と継続して質問しています。この間、「周辺地域整備資金」でヒットする議事録は28本で、そのうち3本が又市さんになりますから、勘所の良い決算審査をしていたことが分かります。 ただ、参・決算委は地味で、「3・11」前に、反映できなかったことは残念です。

 又市質問よりも前に、第162回通常国会の衆・経済産業委員会(平成17年4月8日)には、野党・民主党の細野豪志さんが質問していますが、「周辺地域整備資金ということでございますが、これはどうなんですか、財務省としてこれでいいというふうに判断されているのかどうか、お答えをいただきたいと思います」と、まだばくぜんとした質問になっています。このころは、民主党を代表する議員(名古屋市長に転出)の政策秘書が特別会計に詳しく出版もしており、民主党内で特別会計発掘作業が盛んでした。今となればほろ苦い夏休みのスイート・メモリーに見えますが、大人(政権党)になってから生きています。 

 このほか、私が平成21年度(2009年度)第1次補正予算(麻生パクリ・ピンハネ補正)で「お前は蒋介石か! 自民党が46基金(4・3兆円)を疎開させる」と批判していた一連のリーマン・ショック後の都道府県の基金ですが、約2500の基金に総額約2兆円のお金が使われず余っているようです。

 マスコミも、例えば京都支局や舞鶴支局の記者なら、http://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary22/pdf/fy22_futo_03.pdfのページをざっと見ただけでも、京都府宮津市が「地域情報通信技術利活用推進交付金」を受け取りながら、計画がずさんで、モバイル端末が全く配布されず、構築したシステムが事業期間内に稼働していなかったのにそのシステムの保守費を交付対象事業費として国に新政していたなどという検査結果が載っています。警察担当から行政担当になって、なかなか記事が出せない人は、検査院の検査報告書は「ネタの宝庫」ですし、記事にするうえでは、イチイチ会計検査院の名を出す必要もないのですから、ドンドン活用すれば、いっぱい記事が書けます。

【出先機関がない会計検査院、震災後は実地検査を中心→総務省管区行政評価局を廃止し、検査院の出先機関に衣替えすべきだ】

 平成23年度一般会計予算書(当初)の「会計検査院所管平成23 年度政府職員予算定員及び俸給額表」によると、会計検査院の職員は1276人。報道では、2010年度は約2900カ所の実地検査をし、約3800の自治体・団体を検査しました。3月11日の大震災以降は止めたそうです。会計検査院には出先機関(地方支分局)がありません。ですから、出張につぐ出張の連続。そのなかで「東大の柏市の運動場は利用率が低く有効活用が必要で154億円のムダがある」と指摘する。「全国のおいしい物が食べられてイイネ」と声をかけている余裕はありません。

 それに引き換え、総務省の管区行政評価局には1037人の職員がおり、本省にも約250人います。ほぼ会計検査院と同じ人数がいるわけですが、総務省の管区行政評価局が何か国益・国民益に資したことがあるでしょうか。出先機関改革のためにも、総務省管区行政評価局はそれ自体がムダなので、会計検査院の出先機関に衣替えしたり、内閣府行政刷新会議事務局、総務省統計局に移籍させるべき。そのぐらいのことができないと、民主党政権は何もできません。

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