(このエントリーの初投稿日時は、2014年7月1日午前9時で、閣議決定後の夜に仕立て直し)
国立国会図書館のデータベースに週刊金曜日6月13日号にこのブログの筆者である私、宮崎信行が書いた「民主党の岡田克也元外相が激白 外相時代、米国に集団的自衛権を求められたことは一度もない」が登録されました。
朱に交われば公明党。
自民党と公明党が連立する第2次安倍晋三内閣は2014年7月1日(火)、集団的自衛権の行使解禁をNSC国家安全保障会議の(4大臣会合より重要な)9大臣会合で決定。続いて、臨時閣議で決定しました。
NSCおよび閣議決定文のタイトルは、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」
アドレスは、http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0701kaiken.html
なお、この記事エントリーの末尾にも全文つけておきます。
交戦中に、同盟国アメリカの艦船を日本の自衛隊が援護したり、アメリカに向かう弾道ミサイルを日本が迎撃できるとする内容になるようです。
これらは、すべて自衛隊法改正法案や周辺事態法改正法案などに書き込んで、国会に提出する必要があり、成立し、施行するとしても、早くても2016年夏前後になる見通し。
ただ、法案執筆のプログラムとなるので、歴史的転換点になります。
【追記 2014年7月2日(水)午前6時】
閣議決定文には、「自衛権発動の新3要件」が書き込まれました。
「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使する」ことが憲法上できるとなりました。
まず、この文章は自公協議のために分かりにくくなっています。自衛権発動はおそらく改正法案でも「国会の承認」が必要となるでしょう。この場合、私たち日本国民の有権者が、国会を通して、自衛官に「命を懸けて行ってもらう」ことになりますが、分かりにくいと、国民の少なくとも過半数のコンセンサスを得るプロセスが不透明になります。
【追記おわり】
日本国憲法第9条には「国の交戦権はこれを認めない」との規定があります。自民党憲法改正草案でもこれは削除することになっています。
しかし、憲法を改正しないと、朝鮮半島から出てすぐのところで、中国や北朝鮮、あるいは国に準じるテロ組織から攻撃された場合、交戦できないと考えられます。アメリカに向かう弾道ミサイル、北朝鮮のテポドンだとしても、法律を動かすためには、「アメリカに向かっている」と情報を確定する必要があり、仮にノドンで、日本列島に落ちてくればこれは、個別的自衛権での対応になります。ホルムズ海峡で機雷除去中に攻撃を受けても「交戦」できません。グレーゾーン事態とされる尖閣諸島沖のわが国領海内を中国艦船がうろうろしていても、武力で領海外に出せば国際問題になります。停戦後の国連平和維持活動PKOについても、かけつけ警護ができても1993年になくなった国連ボランティア・中田厚仁さんは守れないし、独立前ならば警察権を使えず、独立宣言後でも停戦が崩れて交戦状態になったら慌てて帰らなければなりません。
日米安全保障条約第3条の「締約国は(略)武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる」。きょうは自衛隊が創設60周年、還暦だそうですが、「自衛隊の練度を挙げ、装備を備え、育て、防衛力を涵養する」私の観点から、第3条が気になります。
まあいずれにせよ、法案が国会に出てくるのは、秋の臨時国会以降。施行は2016年夏前後以降。出てきてから、十分に吟味すべきでしょう。
ところで、日本を独立させ、自衛隊を発足させた、吉田茂が国会で「集団的自衛権」という言葉を使ったことがあるか、調べてみました。 第7回通常国会の衆議院予算委員会で1度だけ使ったことがあります。このときの衆議院は吉田率いる民主自由党が270議席を持ち、最大野党の民主党はわずか70議席。そして、民主党は連立派20人が分離して政権に参加しました。このため、芦田均内閣などで与党を経験しながら、下野した当選2回生、31歳に出番が回ってきたようで、その質問に吉田茂は答えています。次のやりとりです。
「総理大臣は外交の堪能者でありまして、私はしろうとでありますから、総理大臣の御意見をお教え願いたいと思うのでありますが、日本に自衛権がありと総理大臣は演説でおつしやいました。われわれも同感であります。あなたが御存じのように、国際連合憲章によると、51条に集団的自衛権ということが認められている。これは第二次世界大戦後初めて認められた言葉であります。かくのごとき集団的自衛権というものを総理大臣はお認めになりますか」
「当局者としては、集団的自衛権の実際的な形を見た上でなければお答えができません」
「国際連合に表明されているような、つまり連合憲章51条が示しているような集団的自衛権を認めるか、こういう意味であります」
「これは現にこういう自衛権を認めるか認めないかと言つて、連合国政府から交渉を受けたときには、政府としては見解を発表しますが、お話のような問題に対しては、すなわち仮設の問題に対してはお答えいたしません」
「仮設の問題とおつしやいますけれども、私は外交界の先輩に対して、国際法上の解釈を教えていただきたいと申し上げているのであります。先ほども申したように、国際連合憲章51条には集団的自衛権というものがちやんと書いてある。われわれも独立国になれば当然こういう問題の渦中に入る。従つて講和條約に専心してもつぱら御研究なさつている総理大臣のことでございますから、私は当然御研究もあるだろうし、御見解もあるだろうと思います。この集団的自衛権という問題は、日本の独立後私はおそらく一番重大な問題になつて来る問題だろう。そういうところから私はお尋ねしているのであります」
この「集団的自衛権は、日本の独立後一番重大な問題になってくるだろう」と質疑した野党・民主党の2期生は、中曽根康弘衆議院議員です。彼はこの32年後に総理大臣になります。国会議事録でも、中曽根さんが次に「集団的自衛権」というキーワードを残すのは、首相になる32年後までブランクがあきます。
議事録は、1950年昭和25年2月3日(金)第7回国会衆議院予算委員会、本予算審議、第7号。
そして吉田茂が語った「実際的な形」は、ベトナム戦争として現実化しました。アメリカ大統領、ジョン・ケネディによる、「ベトナムが社会主義化(赤化)すると、ドミノ倒しののようにアジア各国が赤化するという」ドミノ理論。しかし、西洋文明と違い、東洋文明とくにアジアは、統一的な宗教基盤もなく、文化も民族もモザイクであり、ベトナムが赤化しても、タイ王国が社会主義化するとはとうてい思えません。もちろん日本国、日本列島も。
この我々アジアの民族、国民事情のパラダイムを間違えたドミノ理論は、やがて、ベトナム民主主義共和国(ベトナム社会主義共和国に改称)のホーチミン国家主席により、「インドシナ支配をしたフランス人と同じ瞳同じ肌をもつ兄弟のアメリカ人が、傀儡国家「南ベトナム共和国(1975年、地上から消滅)」を使ってベトナム全土を侵略しようとしている」として「資本主義を守る戦争」から「ベトナム民族解放および南北ベトナム統一戦争」へと画期的パラダイムチェンジをしました。さらに、南ベトナム共和国内で活動する民族解放組織について、アメリカは「北ベトナム・ホーチミンに指導された国に殉じる組織」との決定的情報をつかめず情報戦で敗北。かつてベトナム王国が衛星国支配した隣国に兵站補給路(ホーチミンルート)があることに、(おそらく)半年前後気づかず『孫子の兵法」にも失敗。アメリカ軍兵士は、「What for? 何のために?」という自問自答の中で、狂っていきました。
このような戦争に日本が参加することになる。例えば、爆弾テロで夫を失い、子どもとともに組織に衣食住を提供され生活しながら洗脳教育と爆弾テロ訓練を受けてきた、女性の自爆テロ犯を鉄砲で殺さなければならないことになります。自衛官は、その自爆テロ女性の最期の表情を一生脳裏から離れないまま生き続けなければならず、酒でなぐさめても、忘れらず、狂って自殺するでしょう。
集団的自衛権の行使には反対です。
たびたび引用されるところですが、吉田茂が防衛大学校第1回卒業式で語ったとされる言葉。実際には卒業記念の冊子に寄せた言葉だそうですが、どうしても引用したくなります。至言です。
「君達は自衛隊在職中、決して国民から感謝されたり、歓迎されることなく自衛隊を終わるかもしれない。きっと非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。御苦労だと思う。
しかし、自衛隊が国民から歓迎されちやほやされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡の時とか、災害派遣の時とか、国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ。言葉を換えれば、君達が日陰者である時のほうが、国民や日本は幸せなのだ。どうか、耐えてもらいたい。しっかり頼むよ」
[国家安全保障会議および閣議決定文全文引用はじめ]
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0701kaiken.html
国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法
制の整備について
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0701kaiken.html
平成26年7月1日
国家安全保障会議決定
閣 議 決 定
我が国は、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家として歩んできた。専
守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則
を守るとの基本方針を堅持しつつ、国民の営々とした努力により経済大国と
して栄え、安定して豊かな国民生活を築いてきた。また、我が国は、平和国
家としての立場から、国際連合憲章を遵守しながら、国際社会や国際連合を
始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。こう
した我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を
勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない。
一方、日本国憲法の施行から 67 年となる今日までの間に、我が国を取り
巻く安全保障環境は根本的に変容するとともに、更に変化し続け、我が国は
複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している。国際連合憲章が理想
として掲げたいわゆる正規の「国連軍」は実現のめどが立っていないことに
加え、冷戦終結後の四半世紀だけをとっても、グローバルなパワーバランス
の変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発及び拡
散、国際テロなどの脅威により、アジア太平洋地域において問題や緊張が生
み出されるとともに、脅威が世界のどの地域において発生しても、我が国の
安全保障に直接的な影響を及ぼし得る状況になっている。さらに、近年で
は、海洋、宇宙空間、サイバー空間に対する自由なアクセス及びその活用を
妨げるリスクが拡散し深刻化している。もはや、どの国も一国のみで平和を
守ることはできず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で一
層積極的な役割を果たすことを期待している。
政府の最も重要な責務は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全う
するとともに、国民の命を守ることである。我が国を取り巻く安全保障環境
の変化に対応し、政府としての責務を果たすためには、まず、十分な体制を
もって力強い外交を推進することにより、安定しかつ見通しがつきやすい国
際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐとともに、国際法にのっとって行
動し、法の支配を重視することにより、紛争の平和的な解決を図らなければ
ならない。
さらに、我が国自身の防衛力を適切に整備、維持、運用し、同盟国である
米国との相互協力を強化するとともに、域内外のパートナーとの信頼及び協
力関係を深めることが重要である。特に、我が国の安全及びアジア太平洋地
域の平和と安定のために、日米安全保障体制の実効性を一層高め、日米同盟
の抑止力を向上させることにより、武力紛争を未然に回避し、我が国に脅威
が及ぶことを防止することが必要不可欠である。その上で、いかなる事態に
おいても国民の命と平和な暮らしを断固として守り抜くとともに、国際協調
主義に基づく「積極的平和主義」の下、国際社会の平和と安定にこれまで以
上に積極的に貢献するためには、切れ目のない対応を可能とする国内法制を
整備しなければならない。
5月 15 日に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」から報告書
が提出され、同日に安倍内閣総理大臣が記者会見で表明した基本的方向性に
基づき、これまで与党において協議を重ね、政府としても検討を進めてき
た。今般、与党協議の結果に基づき、政府として、以下の基本方針に従っ
て、国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要な国内法制を速やかに整
備することとする。
1 武力攻撃に至らない侵害への対処
(1)我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増していることを考慮すれ
ば、純然たる平時でも有事でもない事態が生じやすく、これにより更に
重大な事態に至りかねないリスクを有している。こうした武力攻撃に至
らない侵害に際し、警察機関と自衛隊を含む関係機関が基本的な役割分
担を前提として、より緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ
目のない十分な対応を確保するための態勢を整備することが一層重要な
課題となっている。
(2)具体的には、こうした様々な不法行為に対処するため、警察や海上保
安庁などの関係機関が、それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して
対応するとの基本方針の下、各々の対応能力を向上させ、情報共有を含
む連携を強化し、具体的な対応要領の検討や整備を行い、命令発出手続
を迅速化するとともに、各種の演習や訓練を充実させるなど、各般の分
野における必要な取組を一層強化することとする。
(3)このうち、手続の迅速化については、離島の周辺地域等において外部
から武力攻撃に至らない侵害が発生し、近傍に警察力が存在しない場合
や警察機関が直ちに対応できない場合(武装集団の所持する武器等のた
めに対応できない場合を含む。)の対応において、治安出動や海上にお
ける警備行動を発令するための関連規定の適用関係についてあらかじめ
十分に検討し、関係機関において共通の認識を確立しておくとともに、
手続を経ている間に、不法行為による被害が拡大することがないよう、
状況に応じた早期の下令や手続の迅速化のための方策について具体的に
検討することとする。
(4)さらに、我が国の防衛に資する活動に現に従事する米軍部隊に対して
攻撃が発生し、それが状況によっては武力攻撃にまで拡大していくよう
な事態においても、自衛隊と米軍が緊密に連携して切れ目のない対応を
することが、我が国の安全の確保にとっても重要である。自衛隊と米軍
部隊が連携して行う平素からの各種活動に際して、米軍部隊に対して武
力攻撃に至らない侵害が発生した場合を想定し、自衛隊法第 95 条によ
る武器等防護のための「武器の使用」の考え方を参考にしつつ、自衛隊
と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含む。)に現に従事
している米軍部隊の武器等であれば、米国の要請又は同意があることを
前提に、当該武器等を防護するための自衛隊法第 95 条によるものと同
様の極めて受動的かつ限定的な必要最小限の「武器の使用」を自衛隊が
行うことができるよう、法整備をすることとする。
2 国際社会の平和と安定への一層の貢献
(1)いわゆる後方支援と「武力の行使との一体化」
ア いわゆる後方支援と言われる支援活動それ自体は、「武力の行使」に
当たらない活動である。例えば、国際の平和及び安全が脅かされ、国際
社会が国際連合安全保障理事会決議に基づいて一致団結して対応するよ
うなときに、我が国が当該決議に基づき正当な「武力の行使」を行う他
国軍隊に対してこうした支援活動を行うことが必要な場合がある。一
方、憲法第9条との関係で、我が国による支援活動については、他国の
「武力の行使と一体化」することにより、我が国自身が憲法の下で認め
られない「武力の行使」を行ったとの法的評価を受けることがないよ
う、これまでの法律においては、活動の地域を「後方地域」や、いわゆ
る「非戦闘地域」に限定するなどの法律上の枠組みを設定し、「武力の
行使との一体化」の問題が生じないようにしてきた。
イ こうした法律上の枠組みの下でも、自衛隊は、各種の支援活動を着実
に積み重ね、我が国に対する期待と信頼は高まっている。安全保障環境
が更に大きく変化する中で、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」
の立場から、国際社会の平和と安定のために、自衛隊が幅広い支援活動
で十分に役割を果たすことができるようにすることが必要である。ま
た、このような活動をこれまで以上に支障なくできるようにすること
は、我が国の平和及び安全の確保の観点からも極めて重要である。
ウ 政府としては、いわゆる「武力の行使との一体化」論それ自体は前提
とした上で、その議論の積み重ねを踏まえつつ、これまでの自衛隊の活
動の実経験、国際連合の集団安全保障措置の実態等を勘案して、従来の
「後方地域」あるいはいわゆる「非戦闘地域」といった自衛隊が活動す
る範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組みでは
なく、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所で実施す
る補給、輸送などの我が国の支援活動については、当該他国の「武力の
行使と一体化」するものではないという認識を基本とした以下の考え方
に立って、我が国の安全の確保や国際社会の平和と安定のために活動す
る他国軍隊に対して、必要な支援活動を実施できるようにするための法
整備を進めることとする。
(ア)我が国の支援対象となる他国軍隊が「現に戦闘行為を行っている現
場」では、支援活動は実施しない。
(イ)仮に、状況変化により、我が国が支援活動を実施している場所が
「現に戦闘行為を行っている現場」となる場合には、直ちにそこで実
施している支援活動を休止又は中断する。
(2)国際的な平和協力活動に伴う武器使用
ア 我が国は、これまで必要な法整備を行い、過去 20 年以上にわたり、
国際的な平和協力活動を実施してきた。その中で、いわゆる「駆け付け
警護」に伴う武器使用や「任務遂行のための武器使用」については、こ
れを「国家又は国家に準ずる組織」に対して行った場合には、憲法第9
条が禁ずる「武力の行使」に該当するおそれがあることから、国際的な
平和協力活動に従事する自衛官の武器使用権限はいわゆる自己保存型と
武器等防護に限定してきた。
イ 我が国としては、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場か
ら、国際社会の平和と安定のために一層取り組んでいく必要があり、そ
のために、国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活
動に十分かつ積極的に参加できることが重要である。また、自国領域内
に所在する外国人の保護は、国際法上、当該領域国の義務であるが、多
くの日本人が海外で活躍し、テロなどの緊急事態に巻き込まれる可能性
がある中で、当該領域国の受入れ同意がある場合には、武器使用を伴う
在外邦人の救出についても対応できるようにする必要がある。
ウ 以上を踏まえ、我が国として、「国家又は国家に準ずる組織」が敵対
するものとして登場しないことを確保した上で、国際連合平和維持活動
などの「武力の行使」を伴わない国際的な平和協力活動におけるいわゆ
る「駆け付け警護」に伴う武器使用及び「任務遂行のための武器使用」
のほか、領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わな
い警察的な活動ができるよう、以下の考え方を基本として、法整備を進
めることとする。
(ア)国際連合平和維持活動等については、PKO参加5原則の枠組みの
下で、「当該活動が行われる地域の属する国の同意」及び「紛争当事
者の当該活動が行われることについての同意」が必要とされており、
受入れ同意をしている紛争当事者以外の「国家に準ずる組織」が敵対
するものとして登場することは基本的にないと考えられる。このこと
は、過去 20 年以上にわたる我が国の国際連合平和維持活動等の経験
からも裏付けられる。近年の国際連合平和維持活動において重要な任
務と位置付けられている住民保護などの治安の維持を任務とする場合
を含め、任務の遂行に際して、自己保存及び武器等防護を超える武器
使用が見込まれる場合には、特に、その活動の性格上、紛争当事者の
受入れ同意が安定的に維持されていることが必要である。
(イ)自衛隊の部隊が、領域国政府の同意に基づき、当該領域国における
邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動を行う場合に
は、領域国政府の同意が及ぶ範囲、すなわち、その領域において権力
が維持されている範囲で活動することは当然であり、これは、その範
囲においては「国家に準ずる組織」は存在していないということを意
味する。
(ウ)受入れ同意が安定的に維持されているかや領域国政府の同意が及ぶ
範囲等については、国家安全保障会議における審議等に基づき、内閣
として判断する。
(エ)なお、これらの活動における武器使用については、警察比例の原則
に類似した厳格な比例原則が働くという内在的制約がある。
3 憲法第9条の下で許容される自衛の措置
(1)我が国を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、いかなる事態におい
ても国民の命と平和な暮らしを守り抜くためには、これまでの憲法解釈
のままでは必ずしも十分な対応ができないおそれがあることから、いか
なる解釈が適切か検討してきた。その際、政府の憲法解釈には論理的整
合性と法的安定性が求められる。したがって、従来の政府見解における
憲法第9条の解釈の基本的な論理の枠内で、国民の命と平和な暮らしを
守り抜くための論理的な帰結を導く必要がある。
(2)憲法第9条はその文言からすると、国際関係における「武力の行使」
を一切禁じているように見えるが、憲法前文で確認している「国民の平
和的生存権」や憲法第 13 条が「生命、自由及び幸福追求に対する国民
の権利」は国政の上で最大の尊重を必要とする旨定めている趣旨を踏ま
えて考えると、憲法第9条が、我が国が自国の平和と安全を維持し、そ
の存立を全うするために必要な自衛の措置を採ることを禁じているとは
到底解されない。一方、この自衛の措置は、あくまで外国の武力攻撃に
よって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという
急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るためのやむを得
ない措置として初めて容認されるものであり、そのための必要最小限度
の「武力の行使」は許容される。これが、憲法第9条の下で例外的に許
容される「武力の行使」について、従来から政府が一貫して表明してき
た見解の根幹、いわば基本的な論理であり、昭和 47 年 10 月 14 日に参
議院決算委員会に対し政府から提出された資料「集団的自衛権と憲法と
の関係」に明確に示されているところである。
この基本的な論理は、憲法第9条の下では今後とも維持されなければ
ならない。
(3)これまで政府は、この基本的な論理の下、「武力の行使」が許容され
るのは、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると考えてき
た。しかし、冒頭で述べたように、パワーバランスの変化や技術革新の
急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保
障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他
国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様
等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。
我が国としては、紛争が生じた場合にはこれを平和的に解決するため
に最大限の外交努力を尽くすとともに、これまでの憲法解釈に基づいて
整備されてきた既存の国内法令による対応や当該憲法解釈の枠内で可能
な法整備などあらゆる必要な対応を採ることは当然であるが、それでも
なお我が国の存立を全うし、国民を守るために万全を期す必要がある。
こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討
した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国
と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国
の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆
される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を
全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度
の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛
のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断する
に至った。
(4)我が国による「武力の行使」が国際法を遵守して行われることは当然
であるが、国際法上の根拠と憲法解釈は区別して理解する必要がある。
憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権
が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には、他国に対する武力
攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくま
でも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛
するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものであ
る。
(5)また、憲法上「武力の行使」が許容されるとしても、それが国民の命
と平和な暮らしを守るためのものである以上、民主的統制の確保が求め
られることは当然である。政府としては、我が国ではなく他国に対して
武力攻撃が発生した場合に、憲法上許容される「武力の行使」を行うた
めに自衛隊に出動を命ずるに際しては、現行法令に規定する防衛出動に
関する手続と同様、原則として事前に国会の承認を求めることを法案に
明記することとする。
4 今後の国内法整備の進め方
これらの活動を自衛隊が実施するに当たっては、国家安全保障会議におけ
る審議等に基づき、内閣として決定を行うこととする。こうした手続を含め
て、実際に自衛隊が活動を実施できるようにするためには、根拠となる国内
法が必要となる。政府として、以上述べた基本方針の下、国民の命と平和な
暮らしを守り抜くために、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法
案の作成作業を開始することとし、十分な検討を行い、準備ができ次第、国
会に提出し、国会における御審議を頂くこととする。
(以 上)
[全文引用終わり]